『羊皮紙に眠る文字たち:スラヴ言語文化入門』

黒田龍之助

(1998年12月20日刊行,現代書館ISBN:4768467431



第1章「スラヴ語学入門」は70ページほど.キリル文字の使用表がとても参考になる.変なかたちのキリル文字ってあるんですねー.続く第2章「中世スラヴ語世界への旅」も70ページほど.偽書とか伝説とかいろいろ.スラヴ世界はさながら「異界」のごとし.愉しい.

第3章「文字をめぐる物語」と第4章「現代のスラヴ諸語」では,スラヴ文字書体の歴史を論じた第3章がおもしろい.“キリル文字”の「キリル」が文字創始者の人名だとは知らなかった.しかも,キリル(=コンスタンチン)の造ったのは,実はいまの“キリル文字”ではなく,“グラゴール文字”だったという錯綜した書体誌が魅惑的.p. 167 に載っている“キリル/グラゴール文字対応表”を読み込む.

ヤナーチェクの〈グラゴル・ミサ〉の歌詞は,もとはきっと“グラゴール文字”で書かれていたんだろうね.40年近く前の Acta Nova Leopoldina の進化学特集号には,シンポジウムの際に演奏されたという〈グラゴル・ミサ〉の教会での演奏写真が載っていたことをふと想い出した.




【訂正】確認したところ,正しくは Nova Acta Leopoldina, N. F., 42 (218), 1975 でした.この進化学特集号自体が700ページにも及ぶ厚さがあるのだが,その中でもこのシンポジウムにあわせてマグデブルクで上演された〈グラゴル・ミサ〉に関係する記事は,pp. 419〜461の40ページにわたっている.ヤナーチェクの自筆譜はもちろん,Siegfried Kratzsch による「古代スラヴ語によるミサ写本について」という論文まで載っている(pp. 449〜458).グラゴール文字で書かれた写本のカラー図版も.ほほー.