『世界屠畜紀行』

内澤旬子

(2007年2月10日刊行,解放出版社ISBN:9784759251333目次

【書評】

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これはスゴい! よくぞ出してくれた.拍手また拍手.ちょうど今の時期にこういう本を出すというのは,時節柄ジャストミートで“バッド・タイミング”と言わざるをえない(運が悪かった).しかし,そんなことくらいでは負けない強さのある本だと思う.文章もさることながら,解体イラストがハマりです.引きずり出された駱駝の胎児とか,羊の大動脈を手で引きちぎるとか.屠畜業や皮革業にからむ日頃訊けない(書けない)ことまで国内外を問わずずばずばと切り込む著者の姿勢が印象的だ.おお,解放出版社ですか.たまにはいい本出すじゃん.



チェコやモンゴルでの家庭的屠畜もさることながら,芝浦の大規模屠畜場は「肉の作られ方」を実感させてくれる.文字とイラストの多さをまったく感じさせない迫真のレポート.牛でも豚でも犬でも何でも食べられそう.肉の芝浦・革の墨田・猿の犬山,そして山羊の沖縄まで.さらに,インド,アメリカと屠畜紀行は続いていく.たいへん満腹いたしました.日米の「BSE対策」のあり方のちがいがよくわかって興味深い.全部読み通すうちに,“屠畜”という言葉への違和感がなくなっていく.



本書の出版記念企画が千駄木の〈古書ほうろう〉(id:koshohoro)でいま開催中.同じく不忍通り沿いの〈往来堂書店〉では「屠畜本」フェアを同時開催しているらしいが,いったい誰が買うんだろう…….



目次〈内澤旬子・空礫絵日記〉



三中信宏(24 January 2007|23 February 2012 加筆修正)