エリオット・ソーバー[三中信宏訳]
(2010年4月20日刊行,勁草書房,東京,本体価格5,000円,336 pp.,ISBN:9784326101948 → コンパニオンサイト|紹介|目次|版元ページ)
『過去を復元する』の前半はアブダクション(非演繹的推論としての)の科学哲学論議,後半は最尤法とベイズ統計学のテクニカルな話なので,生物学者・科学哲学者・統計学者のいずれからも等距離に離れているというフシギな本ですね.本書の第1〜2章は最節約性(単純性)に関する論争史,第3章は共通要因の原理をめぐる確率因果性の論議.生物学者にはこれ以降がなじみやすく,第4章の分岐学と仮説演繹主義はポパー.第5章は最尤法と最節約法の絡み合い,第6章でやっと「京極堂」が登場します.確かに流動食のような読みやすさはありません.しかし,それでも,未邦訳の『自然淘汰の本性』(1984)よりははるかにマシ.『自然淘汰の本性』は確率論的因果性の理論をベースにして自然淘汰の意味するところを追究していて超難解ですから.一ノ瀬正樹の「迷宮」本シリーズで武装しないとダメかも.しかし,この『自然淘汰の本性』よりも,『過去を復元する』の続編である『証拠と進化:科学の背後にある論理』(2008)の方が(翻訳するとしたら)先だろうなあ…….