『サンクト・ペテルブルクの異邦人:芸術と文化、歌と生活』

山田実・山田ゆきよ

(2010年6月30日刊行,未知谷,東京,ii+254 pp.,本体価格2,200円,ISBN:9784896423037版元ページ

著者はワタクシと同じ農水省系の植物育種学研究者で(年代はだいぶ上になるが),現在もつくば在住とのこと.前著:山田実『サンクト・ペテルブルク断章:遺伝研究者のロシア滞在記』(2004年5月25日刊行,未知谷,東京,ii+252 pp.,本体価格2,200円,ISBN:4896421078版元ページ)は出てすぐに読んでいた.今回の新刊はその続編にあたり,著者夫婦がそれぞれ署名入りで交互に書き綴っているところが微笑ましい.前著が著者が断続的に長年にわたって滞在した Санкт-Петербург という土地への「招待状」であったとするならば,今回出た姉妹編はこの地に繁栄を遂げた文化と芸術を柱とするもう一つの「顔」に光を当てているようだ.

著者はロシアのヴァヴィロフ研究所に滞在して研究生活を続けていたのだが,本書の最後の一章「科学と政治」は,そのヴァヴィロフ(Николай Иванович Вавилов 1887- 1943)の小伝に当てられている.ぜんぜん知らなかったのだが,本書が出る前の昨年,著者はヴァヴィロフに関する翻訳を同じ出版社から出していた!:I・G・ロスクートフ[山田実訳]『食を満たせ:バビロフとルィセンコの遺伝学論争と植物遺伝資源[抄訳]』(2009年10月刊行,未知谷,東京,本体価格1,400円,ISBN:9784896422818版元ページ).ヴァヴィロフは,ルイセンコとスターリンの犠牲者のひとりであることは確かなのだが,その生涯と業績についての本が日本語で出ていたとは.うっかりしていたなぁ.買わないと〜.ひとつだけ残念なのは,この本が「全訳」ではなく「抄訳」であるという点だ.

四半世紀前に翻訳したスティーヴン・J・グールドのエッセイ集『ニワトリの歯:進化論の新地平(上)』(1988年10月31日刊行,早川書房,東京,296 pp.,ISBN:415203372X)の上巻第10章:「ヴァヴィロフのための聴聞会」(pp. 184-199)を担当して以来,ずっと印象に残っている研究者だ.『分類思考の世界』の第7章「一度目は喜劇,二度目は茶番」でヴァヴィロフに再登場してもらったのには,そういう私的背景があった.