『オックスフォード古書修行:書物が語るイギリス文化史』

中島俊郎

(2011年9月28日刊行,NTT出版,東京,xvi+230+8 pp., 本体価格2,400円,ISBN:9784757142800版元ページ

これもひとつの蒐書日誌.オックスフォードやロンドンでの古書オークション参加記録や歴史のあるボドリアン図書館の“時の重み”が印象に残る.イングランド文化史を古書を通じてたどっていくという著者の仕事は探偵のようだ.内容的にはとてもおもしろい話題が詰まっている本なのだが,ただひとつ残念な点はありえないほどつまらない校正ミスが多すぎることだ.たとえば,冒頭からこんな感じ:

ロンドンにロンドン駅がないように,オッスフォードにもオックスフォード大学自体はない.三〇数校のカレッジを総称してオックフォード大学といっているからだ.(pp. 4-5:下線部ママ)

たった一文に本書の主役を演じるはずの土地名の校正ミスがいくつも重なると読書欲がかなり削がれる.さらにいえば,縦書き本なのだから「三〇数校」は「三十数校」と表記すべきだろう.ほかにも,同様のミスらしき箇所が散見される(下線部ママ):

  • 「名著の起爆力はすさましいかった」(p. 35)
  • オックフォードは紋章だらけ」(p. 48)
  • 「また固執していたオリエンタリズともほどよく距離をとっているため」(p. 63)
  • ボドクアン・ライブラリーは,オックスフォードでの古書修行の大きな道標」(p. 228)
  • ボードリアン・ライブラリー司書」(p. 230)
  • Bicycle: The History Yale University Press」(文献リスト p. 6)
  • ※図版の品質が極端に悪い箇所:pp. 118, 128, 153, 160
  • ※段落インデントのミス:p. 119・第2段落冒頭「今回は全体的に〜」

まるで,初校ゲラをうっかり未修正のまま出版したようなもの.このように校正ミス(それもつまんない誤植)が多いと,そちらにばかり注意が向かってしまって肝心の内容に集中できない.自分の本の「蟲取り」を振り返ればあまり大きな声ではいえないことではあるが,それにしても「オックスフォード」を「オッスフォード」とか「オックフォード」と誤植したまま出版するのはかんべんしてね.増刷の際には徹底的に“蟲取り”をしてほしい.

同じくオックスフォードでの本に埋もれた滞在記:小川百合『英国オックスフォードで学ぶということ:今もなお豊かに時が積もる街』(2004年1月20日刊行,講談社,東京,314 pp., 本体価格1,700円,ISBN: 4-06-212219-7 → 版元ページ)もとてもおもしろい本だった.