今和次郎
(2011年11年15日刊行,青幻舎,京都,288 pp, 本体価格2,500円, ISBN:9784861523229 → 版元ページ)
初夏の歩き読み本として読了.
「日常のあたりまえのできごとが,時,場所,職業等々の要因によって,特殊性を帯び始めることに気がついたのは,今和次郎であった.その着眼点のユニークさと,採集結果を図や絵であらわす描写力の巧みさを合わせ持つ,今の特性が最も発揮されたのが,モデルノロヂオであった」(p. 130)
「今和次郎の仕事を見ていると,対象の中に入っていかないというか,学者っぽく,標本を観察するように,取材対象を観察している印象を受けます」「考現学という,いろいろな種類のデータを大量に採集したテーマが生まれたのは,今和次郎の人間性に由来しているのではないかと思うときがあります」(pp. 158, 159: 都築響一)
これらの引用文を見ると,どことなく「統計学者」っぽいイメージが浮かび上がる.前から感じていたのだが,今和次郎のデータ視覚化(情報可視化)のスタイルは,オットー・ノイラートの「アイソタイプ」と相通じるものが少なくないように見える.たとえば p. 139 に掲載されている図像アイコンによるデータ集計のスタイルは,Otto Neurath[Edited by Matthew Eve and Christopher Burke]『From Hieroglyphics to Isotype: A Visual Autobiography』(2010年9月16日刊行,Hyphen Press, London, xxxii+192 pp., ISBN:9780907259442 → 版元ページ)の p. 109 のアイソタイプ集計と事実上同じといえるだろう.
今和次郎の天賦の画才と統計学的アプローチの接点に,このような図像世界が広がっていた.Richard Tufte だったらきっと喜んで今和次郎をサンプリングしたにちがいない.大村理恵子「今和次郎のドローイング」(pp. 253-256)には次のような指摘がある:
「この時代を担う「考現学」は社会学,統計学の調査方法と近接しており,結果,スケッチだけではなく調査記録も多数のこされた.『モデルノロヂオ』にまとめられたこれらデータは,本展ではスケッチ,調査票,集計表そしてインキングして清書された「版下」と段階を追ってその思考のプロセスを見ることができる」(p. 254)
—— やはり,考現学の実地調査で今和次郎が用いたデータ表示のさまざまなグラフィック・スタイルは情報「可視化」手法の実例としてとてもおもしろいと確信した.