『夫婦格差社会:二極化する結婚のかたち』

橘木俊詔・迫田さやか

(2013年1月25日刊行,中央公論新社中公新書2200],東京,viii+196 pp., ISBN:9784121022004版元ページ

データ中心で話を展開するスタイルの本.「パワーカップル vs. ウィークカップル」論が主張の中心に据えられている.第3章「パワーカップルとウィークカップル」を読むと, “高水準” のパワーカップルと “低水準” のウィークカップルが対置されている. “高水準” とは「高収入・高学歴」の意味.医師・弁護士・経営者とともに「研究者夫婦」もパワーカップルに分類されている!(なんでやねん).その理由は単純.研究者夫婦がパワーカップルとみなされるのは,「夫婦所得の高さではなく,ふたりの教育水準と職業水準の高さにある」(p. 96).平均的にはそらそうやけど…….世代による “分散” は大きく開きつつあるのではないか.この類型化の問題点は「高学歴」ではあっても「低収入」である傾向が高い「研究者夫婦」の実態がとらえきれていない点にあるだろう.

本書で提示された “ウィークカップル” や “パワーカップル” という言葉は,かつての “パラサイトシングル” や “高学歴ワーキングプア” みたいに社会の中で軽く受容されていく気がする.しかし,そのイメージが実態を的確にとらえきれているかはつねに問い続ける必要がある.この手の「データ本」のおもしろくてコワいところは “平均値” がいつのまにか一人歩きすること.研究者はシングルでもカップルでも “分散” が大きいライフスタイルなので, “平均” だけ見て「はい,そうですか」と納得はできない.実情は “ウィークカップル” から “パワーカップル” まで幅広く広がる「研究者夫婦」のあり方はきっとひとくくりには論じられないにちがいない.少なくとも “パワーカップル” という呼び方はごく一面(一部)しかとらえきれていない.

小川眞里子「日本の女性研究者に期待する」(2012年12月20日)に「いまだに研究者の多くが男性で、その男性研究者の半数以上は専業主婦の妻を持ち」と書かれていた.その裏付けは本書第3章に載っている.「男性の収入が多いと配偶者女性は働かない」という “負の相関” に対する反証がそこでの主たる論点だった.しかし,研究者の場合,医師と同じく,男性研究者の配偶者は「専業主婦」である割合がとても高いとのこと.研究者は,おそらく収入はそれほど高くないにもかかわらず,その傾向が強いのが現状.

第3章 p. 95, 図3-4「研究者における配偶者の有無および配偶者の職業」の出典は「平成13・14年度科学技術振興調整費科学技術政策提言プログラムによる調査結果」.このグラフでは「無職」カテゴリーと「派遣・パート・アルバイト」カテゴリーは区別されている.このカテゴリー分けのもとで,男性研究者の配偶者が「無職」である率は「43.2%」.その大部分は “専業主婦” だろう.この傾向は医師や法曹など他の “パワーカップル” の場合と同じであると本書は指摘している.Cf: Tech-on「一筋縄ではいかない女性技術者活用(前編)」(2006年1月16日)※同資料に基づく記事.

また,現状記述と規範提言が混ざっているので,読み進むときには要注意.

本書全体を通じて,豊富なデータと資料が示されていてとても勉強になる.他方,データの「視覚化」の方法にはかなり難があって,せっかくの情報が読者にうまく伝わらない懸念がある.細かい数表を提示するだけでは可読性に欠けるので,もっと視覚的にわかりやすいグラフを多用すべきだったと思われる.