「実家の蔵書整理」

今年も “読了未遂” のまま放り出してしまった本が何冊もある.そういう本のあるものはまだ読むべき時期ではなかったのだろう.新酒で飲むべき酒と熟成させて飲むべき酒のちがいのようなもの.年末年始用の本を何冊か選び,残りは研究室で静かに年を越す.

毎年恒例となったみすず書房の『月刊みすず』の年頭「読書アンケート」特集に寄稿する5冊を選考している.とりあえず今年一年間に手にした本から20冊ほどピックアップ完了.前回の書評アンケートに出したリストはこれ.今回はどれを選ぼうかな.

本のピックアップといえば,年の瀬の先日,京都に出向いて,宇治の実家で蔵書の整理をした.高校時代に買い求めた大半は文庫や新書だったが,講談社ブルーバックスの初期のものがずらっとそろっていた.ダレル・ハフの統計学本とか相対性理論量子力学など.当時としては画期的な科学本だったことを実感する.かつて読んで楽しんだお返しに,いま読んで楽しい(そうか?)本を書いているということだ.

実家から発送した本はダンボール箱にして5箱.可動式本棚にいっぱい詰まっていた昔々の本からの作為的サンプリング数としてはいささか少なかったかもしれない.開封してみて「あれ,こんなの入れたっけ?」という本があった.その本とは手塚治虫の『奇子(上):深淵の章』(1971年1月10日刊行,大都社[ハードコミックスII],東京)と『奇子(下):奔流の章』(1971年1月10日刊行,,大都社[ハードコミックスIII],東京)の2冊.大学に入ってすぐに買ったものだろうが,記憶が定かではない.

輝かしい「科学時代」の到来を描き続けた手塚治虫にしては異色なほど “社会派” なストーリー展開.大団円もハッピーエンドもなく,戦後間もない地方都市の「暗部」を描く.物語的には松本清張水上勉の社会派小説に近く,描き方は横溝正史江戸川乱歩を髣髴とさせる.場面によっては,白土三平の『カムイ伝』のような雰囲気も漂ってくる.数ある手塚治虫の漫画のなかで,よりにもよってなぜ『奇子』を買ったのかはいまとなってはもうわからない.何よりもピックアップした記憶がないんだけど,ひょっとしてひとりで勝手に入ったか?

というわけで,いまつくばに “奇子” がいる…….