『限界集落の真実:過疎の村は消えるか?』

山下祐介

(2012年1月10日刊行,筑摩書房ちくま新書・941],東京,285 pp., 本体価格880円, ISBN:9784480066480目次版元ページ

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限界集落」の幻影と現実



本書は,喧伝される “限界集落” の幻影と実際に現場に足を運んで初めてわかる実像のちがいを詳細に論じている.高齢化により消滅すると予測された “限界集落” がいずれも消滅していない事実を踏まえて,著者は言う:


人々の「ここに生きる」意志と努力は,多くの人間がかんがえているより,はるかに強く深い.集落はそう簡単に消滅するものではないようである.(p. 100)



著者は,地域コミュニティー(著者の言う「むら」)の存続にとっては,高齢化よりもむしろ少子化がより深刻な問題要因であると指摘する:


限界集落論では一般に高齢化の観点から考えてきた.しかし,後で詳しく述べるように,問題の中心は,この高齢化の裏側にある少子化の方である.とくに「戸数が少ない,子供の少ない集落」が「危ない」のである.限界集落とは,現実の生活に問題があるというよりも,継承すべき人口についての将来展望が見えない集落と考えなければならない.地域を引き継ぐべき次世代確保の難しい地域が,消滅の可能性のある地域なのである.(p. 38)



つまり,たとえ高齢化してもそれだけで “集落消滅” するわけではないという.集落内外の構成員がどのような年齢構成をしていて,時空間的にどのように変動していくかがその集落の運命を左右する.集落再生プログラムを立案する場合も,そのようなケースバイケースの要因を勘案すべきであると著者は主張する.さらに,それぞれの集落が背負ってきた “歴史” を個別に分析する必要があるという指摘も重要だ.



限界集落” の問題は,単なる人口問題ではなく,集落外の構成員も巻き込んだ社会的な動態問題であることが本書の論議を通じてしだいに見えてくる.



参考:ライブドアニュース現役大学准教授が明かす『過疎の村・限界集落問題』の本当の課題とは?」(2012年2月8日)※著者・山下祐介氏へのインタヴュー記事.



三中信宏(2014年10月2日)