『言論統制:情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』

佐藤卓己

(2004年8月刊行,中央公論新社中公新書1759],東京, ISBN:4121017595

新書にしては厚い(うれしい).第2次世界大戦中,出版界を踏みにじった〈悪役〉としてあしざまに糾弾され続けた情報統制官・鈴木庫三の足跡をたどる.鈴木は筑波山麓の明野町出身.当時の軍隊ヒエラルキーの「底辺」から這い上がっていった経歴が描かれる.陸軍対海軍の抗争の中で,海軍に後押しされた “京都学派” と陸軍がバックについた東大教育学部派による戦時思想戦をめぐる対立が,戦時中の出版界に対する「言論統制」にも影を落としていたという指摘(第5章)は興味深い.表層的ではない深層的コンテクストがあったということか.また,朝日新聞社の雑誌『科学朝日』は,もともと鈴木の肝いりで軍事関連科学技術の一般啓蒙誌として創刊されたとのことだ(p. 324).“伝説破壊” 的でとてもおもしろい.こういうタイプの擬似ルポルタージュ的スタイルは好み.[2004年10月記]