『測りすぎ:なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』書評

ジェリー・Z・ミュラー[松本裕訳]
(2019年4月16日刊行,みすず書房,東京, xiv+189+22 pp., 本体価格3,000円, ISBN:9784622087939目次版元ページ

現代社会に蔓延する「業績評価」への過度のこだわり( “測定執着” )がいかに害毒を撒き散らしているかを具体的に糾弾する.うっかり油断するといつでも誰でも重篤な “測定執着” の餌食になってしまう.その結果,「一番簡単に測定できるものしか測定しない」,「標準化によって情報の質を落とす」,そして「不正行為」をもたらす(pp. 24-26)など,その悪影響は果てしない.

会計財務主導の「管理主義」にとって「一番の公理は「測定できないものは,管理できない」だ」.この信念が「標準化された,数値化されたデータ」を要求する(p. 37)という指摘は今の日本に広まっている空気そのものではないか.「測定は判断の代わりにはならない.測定は判断を要するものだ」(p. 179)—— 本書の末尾には “測りすぎない” ための「チェックリスト」十箇条(pp. 180-186)がまとめられている.これは役に立つ.

本書を最初に手にとったとき,カバージャケットは方眼紙みたいな地味なデザインだし,『測りすぎ』という書名自体もいまひとつインパクトに欠けるように感じた.しかし,中身のないうわべだけ人受けするキャッチコピーに踊らされる現代社会の愚をするどく指摘する本書には実にふさわしい装丁だと読了後やっと気がついた.みすず書房おそるべし.