楊双子[三浦裕子訳]
(2023年4月25日刊行,中央公論新社,東京, 371 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-12-005652-9 → 目次|版元ページ)
感想がすっかり遅くなってしまった.ワタクシが最近読んだ “台湾本” といえば,焦桐[川浩二訳]『味の台湾』(2021年10月18日刊行,みすず書房,東京, xii+376 pp., 本体価格3,000円, ISBN:978-4-622-09045-8 → 目次|版元ページ)とか,洪愛珠[新井一二三訳]『オールド台湾食卓記:祖母、母、私の行きつけの店』(2022年10月30日刊行,筑摩書房,東京, 16 color plates + 302 pp., 本体価格2,200円, ISBN:978-4-480-83723-3 → 目次|版元ページ)のような “美麗島食べ歩き本” ばかりだったので,本書もてっきり女性二人が台湾を食べつくす本とばかりに思い込んでいた.しかし,本書を最後まで読み終えて,初めて本書がフィクションの “百合小説” であることに気付かされ,先入観の刷り込みはこわすぎると痛感したしだい.確かに,各章ごとに登場する食べものは “ノンフィクション” なのだが,プロットそのものは “フィクション” だったのに,そのことを最後まで気づかなかったとはうかつだった.第二次世界大戦戦時中の台湾と日本との関係が底流に流れ,それぞれの人間関係で表面化する.日本人主人公である千鶴子は同時代的にはかなり “外れた” キャラクターのようにワタクシは感じたが,他方の台湾人通訳・千鶴もうかがい知れない謎めいた背景がまとわりついている.最初のうちは “よそ行き” の食べ歩きの気軽な話でも(ふたりともよく食べる),後半になるとともにふたりの人間関係がしだいにねじれてくる.それでも第9章「菜尾湯」のような美食はうらやましいかぎり.小説でもうまいものはうまい.ドラマか映画にするときっといいかもしれない.