『ポルトガル、西の果てまで』

福間恵子
(2021年9月30日刊行,共和国,東京, 245 pp., 本体価格2,400円, ISBN:978-4-907986-83-4版元ドットコム

ポルトガル関連本が出たら “延髄反射” で即買うことにしている.ワタクシの “本の山” には杉田敦彩流社ポルトガル3巻本:『白い街へ:リスボン,路の果てるところ』(2002年2月)・『アソーレス,孤独の群島:ポルトガルの最果てへの旅』(2005年1月)・『静穏の書:白い街、リスボンへ』(2015年1月)が堆積している.もちろん,同じ彩流社が出すフェルナンド・ペソアの『ペソアと歩くリスボン』(1999年7月)や『ポルトガルの海』(1997年1月)もどこかに埋まっている.さて,今回の新刊はどんな読み心地だろうか.仮フランス装の触り心地はとてもよい.

『学術出版の来た道』書評

有田正規
(2021年10月7日刊行,岩波書店[岩波科学ライブラリー・307],東京, vi+148+10 pp., 本体価格1,500円, ISBN:978-4-00-029707-3目次版元ページ

読了.これは超オススメ本.とくに現役研究者には必読書.学術出版社と学術誌のたどってきた歴史を見渡しつつ,現在のアカデミアの状況がなぜこうなってしまったのかを冷静に記述する.第4章までは学術書・学術論文の出版史が中心だが,第5章以降が出色だ.コンパクトながら,学術出版社の経営・学術誌ビジネスモデルの変遷・オープンアクセス誌の光と影・インパクトファクター煉獄・学術誌包括契約(ビッグディール)・OAメガジャーナルなど主要な問題点がすべて列挙されている.

 

本書『学術出版の来た道』を読み終えて考え込まざるを得ないのは,すぐに実行できるような解決策が「ない」こと,にもかかわらずこのまま放置すれば(少なくとも日本の)科学は「持続可能」ではなくなること —— 著者はアカデミアを取り巻く環境を淡々と記述しつつも,安直な解決策を提示しない.たとえば,学術誌出版社が誰から金を巻き上げようとしているかについて,「ビッグディールで疲弊しきった大学図書館からは,購読料の増収は期待できない.そこで出版社は,研究者個人の研究費という新たな金脈に群がったのだ」(p. 105)と指摘する.確かにそうなっていますよね.では,どうすればいい?

 

学術誌の出版社と経営形態の変遷に関する分析の好例は Nature 誌のケーススタディーだ:Melinda Baldwin『Making Nature: The History of a Scientific Journal』(2015年8月刊行, The University of Chicago Press, Chicago, viii+309 pp., ISBN:978-0-226-26145-4 [hbk] / ISBN:978-0-226-26159-1 [e-book] → 版元ページ).この本は本書でも引用されている.

 

また,本書では科学を語る「リンガ・フランカ」がフランス語→ドイツ語→英語と時代的に推移してきたと書かれている.参考になる文献は:Michael D. Gordin『Scientific Babel: How Science Was Done Before and After Global English』(2015年4月刊行,The University of Chicago Press, Chicago, vi+415 pp., ISBN:978-0-226-00029-9 [hbk] → 目次版元ページ情報).

 

—— ワタクシ的には本書には索引を付けてもらいたかった.それ以外は何も注文は付ける必要がない.多くの読者のもとに本書が届きますように.

『〈極限の思想〉バタイユ:エコノミーと贈与』

佐々木雄大
(2021年10月12日刊行,講談社講談社選書メチエ le livre],東京, 362 pp., 本体価格2,500円, ISBN:978-4-06-523948-3版元ページ

講談社選書メチエの中に新シリーズ〈le livre〉が創刊された.この新刊は大澤真幸熊野純彦編集による〈極限の思想〉叢書の1冊.これまでのメチエとはちがって,仮フランス装っぽい厚手の表紙にくるまれた特装本.

『読む・打つ・書く』書評拾い(30)

三中信宏
(2021年6月15日刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

『アカデミアを離れてみたら:博士、道なき道をゆく』感想

岩波書店編集部(編)『アカデミアを離れてみたら:博士、道なき道をゆく』(2021年8月4日刊行,岩波書店,東京, viii+238 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-00-061483-2版元ページ

人それぞれの経験談.アカデミアの内と外を行き来することのハードルは,当事者ごとに大きく変わる.最年長の嘉田由紀子が「アカデミアを離れてみたら,三途の川があった」(p. 174)と言う時代も確かにあった,一方,若い世代の寄稿者が “運” と “縁” と “恩” に恵まれて超えていく体験談はそれぞれに読み応えがある.

『中国料理の世界史:美食のナショナリズムをこえて』目次

間一弘
(2021年9月20日刊行,慶應義塾大学出版会,東京, xii+571+67 pp., 本体価格2,500円, ISBN:978-4-7664-2764-6版元ページ

中国の食文化が全世界にどのように伝播していったかをさまざまな資料に基づいて考察している.いわゆる “料理エッセイ本” とはまったく異なる食文化進化本.中国料理にまつわるさまざまな “俗説” や “うわさ話” を心地よく成敗してくれるらしい.読むのが楽しみ.650ページ超の大冊にもかかわらず,本体価格2,500円とはまさに価格破壊.慶應義塾大学出版会は太っ腹!


【目次】
序章 中国料理から見える世界史 1

第一部 中国料理の形成――美食の政治史

第1章 清国の料理――宮廷料理から満漢全席へ 35
第2章 近代都市文化としての中国料理――北京・上海・重慶・香港の料理 61
第3章 中国の国宴と美食外交――燕の巣・フカヒレ・北京ダック 101
第4章 ユネスコ無形文化遺産への登録申請――文思豆腐から餃子へ 134
第5章 台湾料理の脱植民地化と本土化――昭和天皇・圓山大飯店・鼎泰豊 150
第6章 豆腐の世界史――ナショナリズムからグローバリズムへ 181

第二部 アジアのナショナリズムと中国料理

第1章 シンガポールとマレーシア――海南チキンライス・ホーカー・ニョニャ料理の帰属 197
第2章 ベトナム――フォーとバインミーに見る中国とフランスの影響 240
第3章 タイ――パッタイ国民食化・海外展開へ至る道 265
第4章 フィリピン――上海春巻きや広東麺が広まるまで 288
第5章 インドネシア――オランダ植民地・イスラーム教と中国料理の苦境 303
第6章 韓国――ホットク・チャプチェ・チャンポン・チャジャン麺 325
第7章 インド――赤茶色の四川ソース 359

第三部 米欧の人種主義とアジア人の中国料理

第1章 アメリカ合衆国――チャプスイからパンダエクスプレスまで 367
第2章 イギリス――チャプスイ・中国飯店・中国料理大使 435
第3章 ヨーロッパ・オセアニアラテンアメリカ――中国料理の文化的意味の多様性 461

第四部 日本食と中国料理の境界――世界史のなかの日本の中国料理  

第1章 近代という時代――偕楽園・チャプスイ・回転テーブル・味の素 499
第2章 近代から現代へ――ラーメン・陳建民・横浜中華街・中華おせち 528
終章 国民国家が枠づける料理のカテゴリー 557

 

後記 565

 

註 [44-67]

 

図版出典一覧 [42-43]
主要参考文献 [16-41]
索引 [1-15]

『学術出版の来た道』目次

有田正規
(2021年10月7日刊行,岩波書店[岩波科学ライブラリー・307],東京, vi+148+10 pp., 本体価格1,500円, ISBN:978-4-00-029707-3版元ページ

これはとてもそそられるテーマ.学術書と学術誌のたどってきた道のりと現状を知る上で参考になる.著者は国立遺伝研の生命情報・DDBJセンター長.


【目次】
第1章 学術出版とは何か 1
第2章 論文ができるまで 9
第3章 学会出版のはじまり 29
第4章 商業出版のはじまり 43
第5章 学術出版を変えた男 55
第6章 学術誌ランキングの登場 73
第7章 オープンアクセスとビッグディール 89
第8章 商業化した科学と数値指標 109
第9章 データベースと学術出版 125

 

おわりに 143

 

注 [1-10]