『読む・打つ・書く』書評拾い(35)

三中信宏
(2021年6月15日第1刷刊行|2021年10月5日第2刷刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

『人、イヌと暮らす:進化、愛情、社会』感想

長谷川眞理子
(2021年11月30日刊行,世界思想社[教養みらい選書・007],東京, xii+184 pp., 本体価格1,700円, ISBN:978-4-7907-1763-8版元ページ

ご恵贈ありがとうございます.東大駒場キャンパスで最も有名な犬としてその名を内外に馳せ,一昨年に大往生を遂げたスタンダード・プードル “キクマル” の一代記.

“マルチスピーシーズ民族誌” という言葉を近年よく耳にする.本書はヒトとイヌがたがいに見つめ合いながら “やわらかな共同体” を形成していく過程を伝記的に描いている.もちろん主役は伝説の名犬 “キクマル” だ.かつてワタクシは駒場キャンパスや幡ヶ谷のマンションで, “キクマル” をなでなでしたことがある.本書を読んでまず受ける印象は,ヒトの住む場にイヌがやってくると,段階的に “ヒト–イヌ共同体” が成立することだ.

ヒトの個性とイヌの個性が最初はぶつかり,しだいに馴染んでいくときのヒト側の心情の変化を著者はつぶさに書き記す.伴侶動物としてイヌを飼っているどの家庭にも本書と同じような “ヒト–イヌ物語” がそれぞれあるにちがいない.

生き物の命はかぎられている.あの “キクマル” も天に上ってしまった. “キクマル” 生前から “キク父” が「キクマルロス」になってしまうのではないかと周囲ではヒソカに懸念されていたが,元気な二代目・三代目のスタンダード・プードルがいるのでもう心配ないだろう.多くのヒトに愛された “キクマル” に冥福あれ.

『読む・打つ・書く』書評拾い(34)

三中信宏
(2021年6月15日第1刷刊行|2021年10月5日第2刷刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

  • shorebird 進化心理学中心の書評など「書評 「読む・打つ・書く」」(2021年11月5日) https://shorebird.hatenablog.com/entry/2021/11/05/122027 ※いつもながら詳細なレビューをありがとうございます.shorebird さんはアナザー『読む・打つ・書く』を一冊書くべきだとワタクシは思います.

『東京の古本屋』感想

橋本倫史
(2021年10月10日刊行,本の雑誌社,東京, 16 color plates + 343 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-86011-462-6目次版元ページ

寝読み本読了.都内10軒の古書店に滞在取材.著者と取材先との “距離感” —間の取り方—が心地よく揺れる.ぐっとズームインしてすぐ隣りにいるかと思えば,すっとズームアウトして外側から見渡したり.このスタイルは,リトルプレス〈不忍界隈〉(2018)以降,本書の姉妹本である『ドライブイン探訪』(2019年1月,筑摩書房)や『市場界隈 —— 那覇市第一牧志市場界隈の人々』(2019年5月,本の雑誌社)を読んでも共通して感じる著者のキホンなのだろう.むしろ独特の “間合い” の取り方が読んでいて心地よいようにワタクシは感じた.しかも,ズームイン/アウトが滑らかなので,叙述のリアルさが際立つ.『ドライブイン探訪』はやや遠めでしたが,今回の新刊は『市場界隈』のような近さの “体温” が伝わってきくる.

『読む・打つ・書く』書評拾い(33)

三中信宏
(2021年6月15日第1刷刊行|2021年10月5日第2刷刊行,東京大学出版会東京大学出版会創立70周年記念出版],東京,xiv+349 pp., 本体価格2,800円(税込価格3,080円), ISBN:978-4-13-063376-5コンパニオン・サイト版元ページ

『The Minard System: The Complete Statistical Graphics of Charles-Joseph Minard』

Sandra Rendgen
(2018年刊行,Princeton Architectural Press, New York, 176 pp., ISBN:978-1-61689-633-1 [hbk] → 版元ページ

ミナールの情報可視化は超有名.大田暁雄の近刊『世界を一枚の紙の上に —— 歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生』(2021年12月刊行予定,オーム社,東京, 本体価格4,500円, ISBN:978-4-274-22785-1版元ページ)でもくわしく分析されていた.

『Observing Evolution: Peppered Moths and the Discovery of Parallel Melanism』情報

Bruce S. Grant
(2021年8月刊行,Johns Hopkins University Press, Baltimore, xii+306 pp., ISBN:978-1-4214-4165-8 [hbk] → 目次版元ページ

かの「工業暗化」に関する最新刊.ワタクシ的にはやっと20年ぶりに本件は解決したのかとホッとする新刊だ.

誰もが知っている「工業暗化」をめぐる研究者群像のドロドロの人間模様については,20年前に1冊の本が出ている:Judith Hooper『Of Moths and Men: An Evolutionary Tale』(2002年8月刊行,W. W. Norton, New York, xx+377 pp., ISBN:0-393-05121-8 [hbk] → 書評・目次).Hooper 本の後半では工業暗化の “証拠” に関して疑念が呈されていた.Hooper 本に対し Science 誌に手厳しい書評を書いたのが他ならない Grant だった: B. S. Grant. 2002. Sour grapes of wrath. Science, 297: 940-941. T. D. Sargent による工業暗化への “反証” をことごとく退けた Grant の論調は不遇だった H. B. D. Kettlewell への弔いだったのだろうか.

本書『Observing Evolution』は工業暗化に関する最近の研究動向を踏まえた総括と位置づけられるだろう.著者はシャクガ類を求めて日本各地にも足を伸ばし,本書には浅見崇比呂や井上寛など数多くの日本人研究者も登場する.おそらくすでにどこかの出版社が翻訳権を取っているのではないだろうか.

『世界を読み解く科学本:科学者25人の100冊』目次

山本貴光(編)
(2021年11月20日刊行,河出書房新社河出文庫や・44-1],東京, 285 pp., 本体価格940円, ISBN:978-4-309-41852-0版元ページ

三中信宏「生物の分類や進化は科学的に研究できるのか?」(pp. 123-130)を執筆した.本書は2015年に出版された:山本貴光(編)『サイエンス・ブック・トラベル:世界を見晴らす100冊』(2015年3月30日刊行,河出書房新社,東京,215 pp., 本体価格1,600円, ISBN:978-4-309-25323-7目次版元ページ)の文庫化改訂版だ.


【目次】
はじめに:本を通じたサイエンスの楽しみ ── 山本貴光 3

《Chapter I: 宇宙を探り、世界を知る》

・この世界の究極の姿は何か? ── 多田将 20
・人はなぜ宇宙を探るのか? ── 福井康雄 28
・光より速く進むことは可能か? ── 赤木昭夫 37
・人類はどこまで宇宙を理解したか? ── 大内正己 46
・地球の変動は人類をどう変えたのか? ── 鎌田浩毅 54
・ハチは飛んできたか? ── 大河内直彦 63
・進化とは何か? ── 長沼毅 71

特別寄稿 ポピュラーサイエンス書の素顔 ── 青木薫 79
送り手に聞く[1]科学絵本のアプローチ ── 山形昌也 87
科学本の読み方[1]巨人の肩によじのぼろう 94

《Chapter II: 生命のふしぎ、心の謎》

・心はどこにあるのだろうか? ── 山口創 98
・動物はどんなふうに働いているのか? ── 本川達雄 106
・生物は、細胞は、果たしてどう進化してきたのか? ── 武村政春 115
・生物の分類や進化は科学的に研究できるのか? ── 三中信宏 123
・昆虫は人間の写し鏡か? ── 小松貴 131
・四千年も歴史がある膨大な「医学」を学ぶには、いったいどこから手を付けたらいいのだろう? ── 森皆ねじ子 139
・動物に心があるか? ── 岡ノ谷一夫 147
・『毒物事典』で分かることとは何か? ── 南伸坊 155

送り手に聞く[2]科学館で立ち止まる ── 籔本晶子 164
送り手に聞く[3]科学新書を眺める ── 小澤久 171
科学本の読み方[2]森羅万象に ”仲間” を見つけよう 178
対談 宇宙と海の深い話 ── 矢野創×高井研 1182

《Chapter III: 未来を映す》

・私たちが〈身体性〉を備えるとはどういうことなのか? ── 岡田美智男 198
・科学的な思考とは何か? ── 吉成真由美 207
・未来の医療はどうなるだろうか? ── 鈴木晃仁 216
・卵はどうして「私」になるのか? ── 榎木英介 224
ビッグデータは世界をどう変えるのか? ── 矢野和男 232
・五感で科学を捉えるには? ── 山田暢司 240
・SF小説を書くには? ── 藤井太洋 248
・ロボットは感情を持てるのか? ── 西垣通 256

送り手に聞く[4]理工書書店員の作庭記 ── 小引聡 265
案内人の名著 270

おわりに さらなるサイエンス/ブックのほうへ ── 山本貴光 280