『ベイズ統計と統計物理』

伊庭幸人

(2003年8月27日刊行,岩波書店ISBN:4000111582



ちょうど100ページある小冊子なので,さくっと読了.叢書〈岩波講座・物理の世界〉の中の〈物理と情報3〉にあたる本.これはとてもおもしろい本です.まだ読んでいない人はすぐに書店に走るべし.ベイズに限らず統計学の入門書としても薦められる.

まず,この“語り口”がいい.こういう軽口をそのまま活字にしたというだけで,明らかに“同種”の書き手だと認知できる.さらに,ベイズ統計学にからんで夢魔のように中空を飛ぶさまざまな概念や考え方(ギッブズ・サンプラーとかシミュレーティッド・アニーリングなど)がひとつひとつ糸でつながれていくというのは,感動的でさえある.MCMCの「物理アナロジー」に感じられたもろもろは,実は「物理そのもの」ということか.

遺伝学の家系分析を基礎例として説明されているので,生物系・農学系の読者にとっても致死率は高くないはず(物理なアイス・ルールとかイジング・モデルなどはとりあえず見なくてもいいでしょう).しかし,事前分布の“闇”はお天道様の下でもしっかり暗かったぞ.どーする?




【目次】
まえがき v

1. 条件付き確率による推論−−遺伝子の伝播を推理する 1

 1.1 メンデルの法則 1
 1.2 逆向きに考える 3
 1.3 ベイズの公式 4
 1.4 だんだん込み入ってくる 7
 1.5 人生はつらい 11
 1.6 働くのが嫌い 15

2. 統計物理アナロジー 18

 2.1 形式的な対応 18
 2.2 協力現象の例−−氷 20
 2.3 協力現象の例−−磁石とスピングラス 25
 2.4 確率的推論と平衡統計物理の似ている点 30
 2.5 遺伝子伝播の問題に対応する「エネルギー」 31
 2.6 空想から実用へ 35

3. モンテカルロでなんでも解こう 37

 3.1 妖精さんにおまかせ−−ギブズ・サンプラー 37
 3.2 ギブズ・サンプラーの使い方 42
 3.3 原理についてもう少しだけ 44
 3.4 モンテカルロはやさしくない 46
 3.5 制約をゆるめる 50
 3.6 拡張アンサンブル法 53

4. ベイズ統計とベイズでない統計 59

 4.1 統計学再訪 59
 4.2 直線のあてはめ 61
 4.3 事前分布って何? 63
 4.4 モデルを事後確率で選ぶ 65
 4.5 新たな疑問 69
 4.6 事前分布追放計画 71
 4.7 統計物理と事前分布 74

5. やわらかな制約による知識の表現 77

 5.1 「滑らかな曲線」をあてはめる 77
 5.2 ベイズの枠組によるマクロなパラメータの推定 80
 5.3 イジング事前分布による画像修復 81
 5.4 事前分布をめぐる問題:ふたたび 85


文献案内−−あとがきに代えて 89
索引 99