『オアハカ日誌:メキシコに広がるシダの楽園』

オリヴァー・サックス[林雅代訳]

(2004年2月29日刊行,早川書房ナショナル・ジオグラフィックディレクションズ],東京, ISBN:4152085479

今回の旅の道連れにしたサックスの『オアハカ日誌』から ——


「どのゲートから出発するんだろう?」みんなが口々にいう.「十番ゲートだよ」だれかが答える.「十番ゲートだっていわれたんだから」「いや,三番ゲートだろう」ほかのだれかがいう.「あそこのボードに書いてある.三番ゲートって」だが,五番ゲートだと聞いたひともいる.いまになってもまだゲートナンバーがはっきりしないとは,なんとも不可解だ.どのゲートナンバーもただの“噂”にすぎず,ぎりぎりになってくじ引きでもして決まるのだろうか.(p. 23)


同定し分類し系統だてたいというわたしたちの本能的な欲求について,スコットと話をする.スコットは,はじめに種を判断するのではなく,まず大きなカテゴリー —— 科 —— で見て,それから属や種に落ち着くそうだ.こういうふうに分類したくなる気持ちというのはどこまでが先天的なものなのだろうかと,ふたりで考える.(pp. 80-81)


オアハカに来てはじめて食べたもののなかで,私はとくにイナゴが気に入っている —— ポリポリしていてナッツのようでおいしく,しかも栄養がある.たいていは揚げてスパイスをくわえて食べる.(p. 145)


わたしはなぜ日誌を書くのだろう? わからない.頭を整理し,感じたことを文章の形にまとめ,自叙伝や小説のように思い起こしたり創作したりするのではなく,“リアルタイム”でこの作業をすることがいちばんの目的なのかもしれない.(p. 9)

訳本の表紙にあしらわれている色鮮やかな布がオアハカの織物だ.オビには「読んでいるうちに一緒に旅をしているような気分になる」(池澤夏樹)と書かれているが,今回は「as if」ではなく,実際にこの本を旅の道連れとした.メキシコの車道のいたるところにある,速度抑制用の“こぶ”のことを“スピード・バンプ”(p. 78)ということも教えられた(スペイン語では何というのか).