『知についての三つの対話』

ポール・K・ファイヤアーベント(村上陽一郎訳)

(2007年7月10日刊行, 筑摩書房ちくま学芸文庫], ISBN:9784480090829



元本は,『知とは何か : 三つの対話』(1993年7月刊行, 新曜社ISBN:4788504561).そーか,ファイヤアーベントの「最後の訳書」が出てからもう15年近く経っているのか.かつて新曜社から続けて出た「ファイヤアーベントもの」はもちろん買っていたが,この『三つの対話』だけは逃していた.『方法への挑戦』と『自由人のための知』の2冊で,「もういいかぁ」って感じで.それにしても,前二書ではなく,どうして三冊目なのだろうか? 対話調だから,受け入れられやすいと予想したのかもしれない.

ぼくが最初に“ファイヤアーベント”に遭遇したのは,修士1年のときに読んだ Eldredge and Gould の断続平衡論の初出論文(1972)だった.単行本『Against Method』(1975)が出る前だから,Gould はこの点では先見の明があったのだろう(のちに Popperian となる Eldredge が“それ”をもちだすはずがない).データの理論負荷性と共役不可能性をわざわざ古生物学の論文で出してきた新鮮さは確かに光っていた.その一方で,“ポパー”が Systematic Zoology 誌の体系学の諸論文に登場するのもちょうどこの頃だから,科学哲学の「武器としてのできのよさ」を比較して測るにはもってこいの時代だったのかもしれない.もちろん,“ファイヤアーベント”はその後は何の役にも立たなかった.

翻っていま見渡すと,“ファイヤアーベント”や彼の盟友“ラカトシュ”はもちろん,宿敵“ポパー”の著作も含めて,訳本がほとんど入手できないのではないか.今回の文庫化に際して付けられた訳者あとがきをみると,ある意味で「諦観の境地」に達したかと思わざるを得ない.それでいいんですか?