『これから学会発表する若者のために:ポスターと口頭のプレゼン技術』

酒井聡樹

(2008年11月30日刊行,共立出版,xiv+166 pp.,本体価格2,700円,ISBN:9784320005792簡略目次著者ページ版元ページ

タイトル通り「これから学会発表する若者」に向けて書かれた本だ.とりわけ,学会発表の「コンテンツ」をどのようにつくるのかについて具体的かつ詳細に論じられている.けっして自己満足ではなく,聴衆に対する“気配り”こそ肝要であるという著者の指摘に心から同意する.この点で,これからの「若者」がポスター発表や口頭発表をするとき,単なるハウツー本ではない本書が格好のガイドになることはまちがいないだろう.著者の目指す学会プレゼンの理念と技術に準拠した発表が増えていけば,学会大会での発表の水準はみちがえるほど改善されるにちがいない(その水準に達していないプレゼンが現実にはまだまだ多いということだ).

ひとつだけ注文をつけるとしたら,それは最後の2章の配置についてだ.第3部「学会発表のプレゼン技術」の第8章「口頭発表の仕方」と第9章「質疑応答の仕方」は本書では末尾に置かれている.しかし,ポスター発表にせよ口頭発表にせよ,見知らぬ数多くの聴衆と対面で向き合うというのが“ハレ(非日常)”である学会発表の最も大きな特徴だとぼくは考えている.この点で大学や研究所の中での内々のセミナーや勉強会など“ケ(日常)”である集まりでの発表とは根本的にちがっている.とすると,ハレの舞台で話をするときの“覚悟”こそ,これからの「若者」があらかじめ身につけるべきことではないだろうか.そういう引導をきっちり渡した上で,はじめて「若者」たちに発表のコンテンツやスタイルについて学ぼうという意欲が内から生まれるとぼくは考える.

こう考えると,末尾の2章はむしろ本書の前半に置かれるか,あるいはこれらの2章とペアになる“イニシエーション”の章が冒頭にあった方がよかったのではないだろうか.そうすれば,「若者」に対する“洗脳効果”はさらに高まっただろうなとつい考えてしまう.プレゼンのためのさまざまな技術を身に付けた「若者」に対して,国内外の“壇上”に上がろうとする動機づけ(勇気づけ?)をする上でもきっと効き目があるにちがいない.

—— “高座に上がる”あるいは“舞台を踏む”ことについては,人それぞれの私的な経験が大きくものを言うことは確かだと思う.ぼくの場合は,元禄時代にまとめられたという『役者論語』から大きな影響を受けている(→ 1997年の応動昆講演「実践プレゼンテーションテクニック:講演はショータイム!」).さらには,かつての予備校講師としての個人的経歴から得た教訓もきわめて多い(→ 2006年3月6日「日録」)