シーラ・ホッジズ[奥山康司・三澤佳子訳]
(1985年10月20日刊行,晶文社[晶文社アルヒーフ],東京,316+xiv pp., ISBN: 4-7949-2415-1)
四半世紀も前に出た本だが,とてもおもしろそうなイギリスの書店物語.同業者たちはもとより,伝説的タイポグラファーであるスタンリー・モリスンがちょこっと出てきたり.歴史の長い書店のお話しは二段組で延々と続く.写真もたくさん載っている.
アメリカやイギリスの(ドイツもそうか)歴史のある書店(出版社)というのは,社名が即“個人名”を連想させるというところがおもしろい.とりわけユニークな(アクの強い)創業者がいるほど社名とダブって創業者「個人」の人となりが見えるということ.『ゴランツ書店』を読んでいるとそう感じる.※スタンリー・モリスンはゴランツ社の社員だったのね.あらま.
二段組なので,すぐに「お腹いっぱい」になる.〈選集(omnibus)〉という言葉は創業者ヴィクター・ゴランツが1928年に造語したものらしい(p.76).ほほー.また,アメリカのサイモン&シュースター社はゴランツ社からの分社とのこと.かの Penguin ペーパーバックスよりも前にゴランツは文芸書の廉価版シリーズを構想し試行してみたそうだ(失敗したが).単行本の“原稿査読員”(出版に値するかどうかを判断する)の話題がよく出てくる.出版すべきか否かの難しい判断を経営者に諮問する立場にあるらしい.日本ではそういう制度があるという話は聞かないが,彼の国ではそれが当然のことなのか.
こんなくだりも――
ふつう作家や出版社はひどい書評が出てもこれは職業上の災厄のようなものだとして無視する.(p.132)
書評は(いかなるものであっても)甘受すべしということか.ヤバそうな書評は先手を打って妨害するという選択肢はないわけね(ふっ).
Left Book Club 創立の経緯は興味深い.社主ゴランツの“左翼ぶり”もさることながら,J. B. S. ホールデンをはじめ当時のシンパたちの動向が本の向こうに見え隠れする.ソルジェニーツィンやキングズレイ・エイミスもゴランツ育ちということですか.大きな社会的影響を長年にわたってもち続けた,たいした書店.それにしても,このインパクトのある宣伝戦術は効果的だな.さすがスタンレー・モリソン.類は友を呼ぶことも確かだった.