『耶馬溪紀行』

田山花袋(文)・小杉未醒(画)
中津玖珠日本遺産推進協議会復刻発行・増補改訂版
(2018年3月26刊行,図書出版のぶ工房,福岡, lxviii+261 pp., 本体価格1,500円, ISBN:9784901346627目次版元ページ

昨年,耶馬渓が日本遺産に指定されたのを契機として,1927年に實業之日本社から出版された『耶馬溪紀行』が図版と注釈付きで復刻された.巻頭には小杉未醒による絵がカラー(16葉)とモノクロの図版(20ページ)で複製され,巻末には紀行文中で言及された場所のカラー写真と説明(30ページ)が附されている.このコンテンツで1,500円という販売価格はふつうありえへん.中津市玖珠町のバックアップがあって初めて出版が可能になったのだろう.この紀行は,田山花袋らが別府から汽車で北上し,中津の城下町にたどり着いたところから始まる.耶馬渓への旅路はここから.文章のノリは岩波文庫にも入っている:田山花袋温泉めぐり』(2007年6月15日刊行[初版1926年],岩波書店岩波文庫・31-021-7],東京,380 pp., ISBN:9784003102176感想版元ページ)とよく似ている.田山花袋は,ときどき文句を言ったりぼやいたりしながらも,中津から別府までの旅路をいきいきと描いている.花袋は稀代の紀行文士・旅行ライター・温泉作家の先駆だと思う.