『慕倣 みっしりずしり:長塚節と藤沢周平』目次

山形洋一
(2019年7月31日刊行,未知谷,東京, 253 pp., 本体価格2,800円, ISBN:9784896425826

長塚節藤沢周平の作品の類似ぶりを調べ上げた新刊.長塚節茨城県出身ということもあり何の気なく手にした(カバージャケットに誘引されたのかも).藤沢周平は読んだことないし,長塚節は『土』しか知らない.それよりも何よりも著者の「山形洋一」の方がワタクシにははるかに身近だったりする.かつてまだ右も左も分からない学部生だったころ,弥生キャンパスを歩いていて,この著者とすれちがった記憶がひさしぶりによみがえる.当時の東大農学部害虫学研究室はツワモノそろいで,その中でも「ヤマガタさんとオチアイさんは別格だ」と聞いていた.当時,彼らは大学院生だったのかそれともピュアな “オーバードクター” だったのか.そのヤマガタさんはJICAのつながりでグアテマラに行ってしまった.それ以来のことだ.応用昆虫学者とばかり思っていた山形洋一さんがいつの間にか長塚節の研究者として未知谷から何冊も著書を出しているとは大いなる驚きだった.


【目次】
まえがき 7
序章 『蝉しぐれ』の甘さを引き締める『土』の隠し味 9
第1章 『土』を踏まえた人物造形 31
第2章 暗さの表現 71
第3章 「もの」で書かれる情念 103
第4章 自然と農村へのまなざし 166
第5章 貧とユーモア 205
終章 『漆の実のみのる国』:貧と闘う「文学」 239

参考文献 251
あとがき 252

『ヴィクトリアン・レディーのための秘密のガイド』目次

テレサ・オニール[松尾恭子訳]
(2019年7月31日刊行,東京創元社,東京, 322 pp., 本体価格3,800円, ISBN:9784488003920版元ページ

こっそり読みましょうね.


【目次】
こんにちは、自堕落さん 9
第1章 服を着る:恥ずかしい部分を上手に隠す方法 13
第2章 バケツに排泄する:忌まわしき生理的欲求 23
第3章 油断ならない入浴 39
第4章 月経:あなたはまちがっている 59
第5章 ダイエット:あなたは小さなプディングバッグ 81
第6章 美:焼き、厚く塗り、詰める 97
第7章 求愛:自分からは言い寄らない 121
第8章 結婚初夜:ばかな殿方と契りを結ぶ 145
第9章 避妊とその他の神を冒涜する行為 171
第10章 良き妻:夫をできるかぎり怒らせないための方法 201
第11章 家庭を正しく営む:緩やかな支配 223
第12章 公の場におけるふるまい:辱めと危険と博物館を避ける 249
第13章 ヒステリー:ヴィクトリア朝時代の生活においてちっとも愉快ではないこと 269
第14章 秘密の堕落行為:「いぼと小さい乳首はこれに起因する」 291
結論 パンティが恋しい 307
謝辞 抱擁を! あなたに抱擁を! 311
参考文献 313

解説[村上リコ] 317

『日本捕鯨史【概説】』目次

中園成生
(2019年7月30日刊行,古小烏舎,福岡, 222 pp., 本体価格1,900円, ISBN:9784910036007版元ドットコム


【目次】
はじめに 9
第1章 日本捕鯨の概観 11
第2章 初期捕鯨時代 31
第3章 古式捕鯨業時代前期 43
第4章 古式捕鯨業時代中期 59
第5章 古式捕鯨業時代後期 95
第6章 古式捕鯨業時代の鯨の利用 117
第7章 捕鯨にまつわる文化 131
第8章 近代捕鯨業時代前期 157
第9章 近代捕鯨業時代後期 177
第10章 管理捕鯨時代 199

あとがき:日本捕鯨の過去・現在・未来 212
主要参考文献 218

『ポリネシア海道記:不思議をめぐる人類学の旅』目次

片山一道
(2019年7月31日刊行,臨川書店,京都, 278 pp., 本体価格3,200円, ISBN:9784653043867版元ページ


【目次】
第1章 南太平洋の島嶼世界をゆく――ポリネシアの不思議な島々と人々―― 5
第2章 世界のヘソか、あるいは海のコブか――イースター島(ラパヌイ)の不思議―― 41
第3章 トンガ王国紀行――クック船長が「友情諸島」と呼んだ島々―― 113
第4章 ポリネシアの人物群像――「巨人たち」、ときに「虚人たち」との一期一会―― 173
第5章 チャタム諸島――ポリネシアの行きどまり、地球の終着駅―― 223
参考文献 271
あとがき――ポリネシアの<不思議>を再訪、再考する旅―― 275

『ルネサンス庭園の精神史:権力と知と美のメディア空間』目次

桑木野幸司
(2019年8月15日刊行,白水社,東京, 6 color plates + 352+35 pp., 本体価格4,800円, ISBN:9784560097113版元ページ


【目次】
カラー口絵(6 pp.)
序 イタリア・ルネサンス庭園史の射程 7
第1章 古代・中世の庭園文化 23
第2章 ルネサンスにおける風景の発見 49
第3章 メディチ家の初期のヴィッラ庭園 78
第4章 天才ドナート・ブラマンテの造園革命とその影響 111
第5章 象徴化するランドスケープ――ラッファエッロの夢 151
第6章 庭園に再現された地誌――庭を読む視点の誕生 188
第7章 コレクション空間としての庭園――「庭の掟」と植物園の世界 222
第8章 黄金時代――ヴィッラ・デステとヴィッラ・ランテ 260
第9章 マニエリスム庭園の極北――グロッタ・グランデとプラトリーノ 304
結び 終わらない宴 342

あとがき――言の葉が舞う庭 349
図版出典 [28-35]
註と典拠 [9-27]
事項索引 [5-8]
人名索引 [1-4]

『生きもの民俗誌』目次

野本寛一
(2019年7月30日刊行,昭和堂,京都, xviii+666+xxiii pp., 本体価格6,500円, ISBN:9784812218235版元ページ

日本の民俗動物学の大著.総頁数700ページ,鹿・熊・猪だけで300ページもある.こういう本はまちがいなくワタクシのところに漂着する.


【目次】
はじめに i

序章 天城山麓のムラから 1

第I章 獣——ケモノ 17

シカ 18
クマ 125
イノシシ 225
キツネ 309
モグラ 338

第II章 鳥——トリ 357

ツバメ 358
ツル 374

第III章 蛇——ヘビ 409

マムシ 410
ハブ 433
アオダイショウ 456

第IV章 魚・貝——サカナ・カイ 467

アマゴ 468
タニシ 499

第V章 昆虫——ムシ 537

コオロギ 538
ケラ 546
ワタムシ 552
カメムシ 564
クスサン 578
ブユとカ 587
ノミとシラミ 602
ハチ 612
虫送りと虫供養 637

終章 旅の終わりに 647

あとがき 665
地名索引 [i-xxiii]

『イメージ学の現在:ヴァールブルクから神経系イメージ学へ』読売新聞書評と備忘メモ

坂本泰宏・田中純・竹峰義和(編)
(2019年4月26日刊行,東京大学出版会,東京, iv+542+xv pp., 本体価格8,400円, ISBN:9784130101400目次版元ページ

読売新聞大評記事が紙面公開された:三中信宏図像からみた知の根源 —— イメージ学の現在…坂本泰宏、田中純、竹峰義和編」(2019年7月28日掲載|2019年8月5日公開)



図像からみた知の根源

 本論文集は、2016年に東京大学駒場キャンパスで開催された「イメージ学(ビルトヴィッセンシャフト)」に関する国際シンポジウムの講演録だ。ドイツ発祥のこの新しい学問分野は図像や形象に関する意味あるいは行為についての考究を目指している。そもそも「イメージ学」というネーミングはつかみどころがなさすぎるのではと私は感じるが、この領域横断的な学問の射程がきわめて広いことの当然の帰結なのだろう。

 私が専門とする分類学や系統学では、生物多様性を図示するために昔からさまざまなダイアグラム(包含図や系統樹やネットワーク)を用いて、複雑極まりない生物界の様相を可視化しようと試みられてきた。この「ダイアグラム論(ディアグラマティーク)」もまた本書の「イメージ学」の中に包含される。

 本書では、大作<ムネモシュネ・アトラス>の作者アビ・ヴァールブルクの図像解釈学など美術史の事例、生物学分野で描かれてきたさまざまな図像の分析、神経科学・認知科学への発展の試み、さらにはCGアニメ・写真・映画のメディア論そしてコンピューターのユーザーインターフェースにいたるまで、現在のイメージ学が到達した最前線を幅広く見渡すことができる。

 その一方で、広大なイメージ学の最先端を読者が読み解くためには総論的な予備知識がある程度はあった方がいいだろう。幸いなことに、本論文集でいくつかの基調論文を寄稿しているホルスト・ブレーデカンプの著書『ダーウィンの珊瑚』が法政大学出版局からすでに邦訳されている。イメージ学に開眼するためにぜひどうぞ。

 取り上げられる図像は章によって抽象的だったり具象的だったりするが、それらの図像のもつ能動的な作用をめぐるイメージ学の観点からの解読は新鮮だ。図像が生み出すさまざまな“知”はわれわれをつねに刺激し啓発し続ける。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2019年7月28日掲載|2019年8月5日公開)



本書は国際シンポジウムの論文集なので,“総論” にあたる解説が少ないようだ.幸いなことに,本論文集に基調論文を寄稿しているホルスト・ブレーデカンプ(Horst Bredekamp)の邦訳書:ホルスト・ブレーデカンプ[濱中春訳]『ダーウィンの珊瑚:進化論のダイアグラムと博物学』(2010年12月10日刊行,法政大学出版局[叢書ウニベルシタス949],東京,16 color plates + iv+185 pp., 本体価格2,900円,ISBN:9784588009495目次版元ページ大学出版部協会ページ)が進化生物学における「イメージ学」の格好の入門になるかもしれない.

また,日本語には訳されていないが,ブレーデカンプの学統に連なる進化イメージ学の本が英訳されている:Julia Voss[Lori Lantz訳]『Darwin's Pictures: Views of Evolutionary Theory, 1837-1874』(2010年刊行,Yale University Press, New Haven, x+340 pp.+ 16 color plates, ISBN:9780300141740 [hbk] → 目次版元ページ情報).

さらに,イメージ学のもうひとりの先達であるゴットフリート・ベーム(Gottfried Boehm)の著作も日本語で読めるようになった:ゴットフリート・ベーム[塩川千夏・村井則夫訳]『図像の哲学:いかにイメージは意味をつくるか』(2017年9月10日刊行,法政大学出版局[叢書ウニベルシタス・1066],東京, viii+301+19 pp., 本体価格5,000円, ISBN:9784588010668版元ページ).

「イメージ学(Bildwissenschaft)」という用語そのものがまだ日本では浸透しているとは必ずしも言えないので,一般読者がこの厚くて重くて硬い『イメージ学の現在』に取り組もうとするとき,これらの参考書は事前の “準備運動” としてきっと役立つだろう.

ワタクシが2017年に上梓した『思考の体系学』(春秋社)には「分類と系統のダイアグラム論」という副題を付けた.読売新聞書評の中でも言及したが,分類学や系統学では,生物多様性を図示するために昔からさまざまなダイアグラム(包含図や系統樹やネットワーク)を用いて,複雑極まりない生物界の様相を可視化しようと試みられてきた.この「ダイアグラム論(Diagrammatik)」もまた「イメージ学」の中に丸ごと包含される一分野とみなされる:

ワタクシはもっぱら分類学・系統学の観点から『イメージ学の現在』を読んだが,さまざまな視点あるいは興味からイメージ学を読むことができるだろう.まだあまり書評や感想が出ていないようなので,思い立ったらぜひ挑戦してほしい本.



[追記]イメージ学におけるダイアグラム論については Bildwelten des Wissens 誌に特集号〈Diagramme und bildtextile Ordnungen〉(Bd. 3, Nr. 1, 2017)があると坂本泰宏さんにご教示いただいた.