『南インド料理とミールス』

ナイル善己
(2017年7月25日刊行,柴田書店,東京, 151 pp., 本体価格1,900円, ISBN:978-4-388-06265-2版元ページ

銀座ナイルレストラン三代目の本.先日読んだ:田邊俊雅,メヘラ・ハリオム『インドカレーは自分でつくれ:インド人シェフ直伝のシンプルスパイス使い』(2019年12月13日刊行,平凡社平凡社新書・928],東京, viii+221 pp., 本体価格820円, ISBN:978-4-582-85928-7版元ページ)は北インド料理の本だった.南インド料理の本書といいペアになるかも.

『ラリルレロボットの未来:5分類からみえてくる人間とのかかわり』目次

斎藤成也・太田聡史
(2020年1月20日刊行,勁草書房,東京, xii+228+xxix pp., 本体価格2,700円, ISBN: 978-4-326-05018-5 → 版元ページ

ラボット,リボット,ルボット,レボット,ロボット —— 攻めてる攻めてるロボット本.三島からのご恵贈感謝です.


【目次】
はしがき iii
第0章 ロボットを分類整理するために 1
第1章 「ロボット」を五分類する 7
第2章 ラリルレロボットと人間のかかわり 21
第3章 ラボット・リボット・ルボット・レボットの未来 89
第4章 ロボットの未来 127
第5章 ラリルレロボットの文化的意義 189
あとがき 221
注 [vi-xxix]
索引 [ii-v]
著者略歴 [i]

『フランスチーズ図鑑』

磯川まどか
(2019年12月10日刊行,柴田書店,東京, 207 pp., 本体価格3,200円, ISBN:978-4-388-35353-8版元ページ

昨日,博多駅ビルの丸善をゆらゆら歩いていたら,お料理本コーナーの本書に呼び止められた.ひさしぶりにチーズの新しい図鑑を買うのも悪くないだろう.チーズに関するワタクシの “座右の書” は四半世紀前に出た:文藝春秋(編)|増井和子・山田友子・本間るみ子(著)|丸山洋平(写真)『チーズ図鑑』(1993年11月1日刊行,文藝春秋,東京,271 pp., ISBN:4-16-348130-3版元ページ)だ.その後,この本は同名の新書になった:文藝春秋(編)|本間るみ子・増井和子・山田友子(著)|丸山洋平(写真)『チーズ図鑑』(2001年7月20日刊行,文藝春秋[文春新書・182],東京,230 pp., ISBN:4-16-660182-2版元ページ).しかし,ワタクシは今でも元のハードカバー版を愛読している.さて,この新しいチーズ図鑑はどうだろうか.

『青狐の島:世界の果てをめざしたベーリングと史上最大の科学探検隊』目次

ティーブン・R・バウン[小林政子訳]
(2020年1月24日刊行,国書刊行会,東京, 291 pp., 本体価格3,200円, ISBN:978-4-336-06386-1版元ページ

ベーリング海峡」にその名を残すベーリングの評伝.シベリアからアラスカにかけての北太平洋を縦横無尽.


【目次】
歴史年表 7
序文 世界の果て 15

第1部 ヨーロッパ

第1章 大使節
第2章 第一次カムチャツカ探検隊
第3章 完璧な計画

第2部 アジア

第4章 サンクトペテルブルクからシベリアへ
第5章 対立
第6章 幻の島々

第3部 アメリ

第7章 大陸ボリシャヤ・ゼムリヤ(アラスカ)
第8章 遭遇
第9章 海難

第4部 どこかわからない場所

第10章 青狐の島
第11章 死と賭けトランプ
第12章 新しい聖ピョートル号

結び ロシア領アメリカ 255

資料・文献について 269
謝辞 272
訳者あとがき 273
参考文献 [286-276]
索引 [291-287]

『騒音の文明史:ノイズ都市論』目次

原克
(2020年1月31日刊行,東洋書林,東京, 431 pp., 本体価格3,800円, ISBN:978-4-88721-827-7版元ページ

読書委員会でもコメントしたのだが,本書の組版は尋常ならざるノイジーさ.ギリギリまで字を詰め込んでいて,裁ち落としがちょっとでもズレたらアウトやろ状態.おそらく狙っているんだろうけど.


【目次】
はじめに 2
第1章 年の周縁の音世界 6
第2章 寺の鐘と教会の鐘の政治学 40
第3章 太鼓と木魚の社会秩序 77
第4章 拍子木と自由の観念 122
第5章 精神という神話とモダンタイムズ 160
第6章 プライバシーの音響学 197
第7章 騒音と静寂の権力論 236
第8章 都市の交響楽 284
第9章 サイレンと国家イデオロギー 330
第10章 ラジオと時代の尖端性 368
おわりに 416

註 [426-419]
主要参考文献 [429-419]
詳細目次 [431-400]

『アリストテレス:生物学の創造[上・下]』読売新聞書評と読書メモ

アルマン・マリー・ルロワ[森夏樹訳]
アリストテレス 生物学の創造[上]』(2019年9月17日刊行,みすず書房,東京, viii, pp. 1-291, 63, 本体価格3,800円, ISBN:978-4-622-08834-9目次版元ページ
アリストテレス 生物学の創造[下]』(2019年9月17日刊行,みすず書房,東京, iv, pp. 293-586, 35, 本体価格3,800円, ISBN:978-4-622-08835-6目次版元ページ

読売新聞大評が掲載された:三中信宏よみがえる哲人の業績 —— アリストテレス 生物学の創造 上・下…アルマン・マリー・ルロワ著」(2020年1月19日掲載|2020年1月27日公開)



よみがえる哲人の業績

 生物学の歴史をさかのぼれば、アリストテレスにたどりつく。しかし、「アリストテレス以来2000年の歴史をもつ生物学」と口にするとき、それは「中国4000年の伝統の味」と同じく単なる枕詞でしかない。現代のわれわれは、2400年も前のギリシャ時代に生きたこの哲人とその科学上の業績を手の届かない“神棚”に祭り上げておけばそれでよいのだろうか。

 上下巻合わせて600頁にもなる大著だが、読み終えて即座に「おみそれしました」とひれ伏してしまった。アリストテレスの哲学的著作である『分析論前書』『分析論後書』『カテゴリー論』などはその厳密さと難解さをもって知られる。一方、『動物誌』『動物発生論』『動物部分論』など自然誌の著作群には、具体的な動植物に関する膨大な知見が盛り込まれていて、ずいぶん趣が異なる。1世紀前の生物学者ダーシー・ウェントワース・トンプソンは『動物誌』をギリシャ語から翻訳して飽くことなく詳細な注釈を付けた。

 本書は、アリストテレスがどのようなデータと論理の上に生物学を築いたのかを、フィールドワークの現場となったエーゲ海レスボス島にある潟湖を視野に置きながら考察する。彼が提唱する生物体をつくりあげる究極要因としての「形相」は長らく概念的誤謬であるとみなされてきた。しかし、現代の発生生物学の観点から見れば因果過程としての個体発生における「情報発現」はまさに形相因に通じるものがあると著者は言う。また、自然の存在物に関してアリストテレスが抱いた連鎖と充満と推移のイメージは、後世の生物多様性の理解に深遠な影響を及ぼした。

 評者の研究室には旧版のアリストテレス全集が書棚の上に何年もひもとかれないまま静かに鎮座している。本書を読了したいま、ふたたびアリストテレスに手を伸ばそう。2000年あまりの年月を隔てた響き合いは途切れることがない。“彼”は細部に宿る。森夏樹訳。

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年1月19日掲載|2020年1月27日公開)



本書はアリストテレスの生物学的業績に関する本であると同時に,生物学側からのアリストテレス研究史の本でもある.

ワタクシが本書を手にして驚倒したのは,後年『成長と力』(1917)を書いたダーシー・ウェントワース・トンプソンのギリシア古典学の素養の深さだった.ダーシー・トンプソンの前半生はアリストテレス研究に捧げられている.『動物誌』のギリシア語から翻訳と徹底的な注解をルロワは随所で引用している.というか,原書タイトル『The Lagoon: How Aristotle Invented Science』の「ラグーン(潟湖)」とはトンプソンの文に依拠している.ギリシャ古典の鳥類名と魚類名に関する同定辞典を出したダーシー・トンプソンにとっては,還暦近くになって出した『成長と力』はほんの手慰みだったのではないかと思えるほどだ.ギリシャ古典の教師だった父親の膝の上で物心つく頃からギリシャ語に馴染んできたトンプソン,げにおそるべし.

もちろん,2400年も経ってなお降臨するアリストテレスも驚異的なら,それら全部をひっくるめてこの大著をものしたルロワも輪をかけてヤバすぎる.さらに訳書のカバージャケットはみすず書房らしからぬ和風ヴィジュアルなので手に取る価値あり.