〈ダーウィンの悪夢〉

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届いたばかりの『UP』誌の最新号(no. 397,2005年11月号)に,西谷修「人みなそれぞれのアフリカを……:『ダーウィンの悪夢』から」という記事が載っている(pp. 41-45).いま方々で話題になっている映画〈ダーウィンの悪夢〉に関する記事で,進化学者ならだれでも知っているビクトリア湖の魚類相の適応放散と導入魚ナイルパーチによるその短期的破壊の物語だ.

日本ではローカルな上映が行なわれただけだそうだが,西谷記事によると,つい最近 DVD が発売されたとのこと.これは10月12日発売のフランス語版(→ amazon.fr)だが,おそらく他国語版 DVD も近い将来リリースされるのではないだろうか.調べてみたら,ドイツ語版 (→Amazon.de)がこの年末に販売されるらしい.英語版はさらにその後か…….

西谷さんの記事では,ビクトリア湖に導入されたナイルパーチについて:




ダーウィン流の「適者生存」という考えに照らしてみるなら,ナイルパーチはみずからが「適合種」であることを示したということだ.(p. 41)



と書かれている.確かに,ティス・ゴールドシュミット著『ダーウィンの箱庭 ヴィクトリア湖』(1999年9月16日刊行,草思社ISBN:4794208863)の目次にある通り,「お前の魚はいなくなった」ことは事実だ.しかし,人為的に放流されたナイルパーチは,導入生物にはよくある暴力的増殖をビクトリア湖内で実行しただけであって,進化的な意味での「適合種」であるというのはおそらく正しくないだろう.進化理論の政治的な過剰解釈ではないかとぼくは感じた.

Tijs Goldschmidt のこの訳本の原書は,『Darwins hofvijver: een drama in het Victoriameer』(1994年刊行,Prometheus,ISBN:9053336117)というオランダ語の本だ.“hofvijver”とは「宮殿前の池」という意味で,オランダにはよく見られる光景(→たとえばこのサイト)らしい.少なくとも「箱庭」(日本語訳)とか「夢の池(dreampond)」(英訳本)とはちょっとちがうんじゃないかなー.

—— いずれにせよ,このドキュメンタリー映画の DVD が発売されたというのは朗報だ.