『The Calculus of Variants: An Essay on Textual Criticism』

W. W. Greg

(1927年刊行,Clarendon Press, Oxford, vii+63 pp./Reprinted in 1971: Folcroft Library Editions → 書評目次情報



写本系譜推定に関する W. W. Greg の主著『The Calculus of Variants: An Essay on Textual Criticism』は日本の公的機関にはほとんど所蔵されていない.こういう機会にと思ってオンライン古書店をいくつかあたってみたら,ペーパーパック版ならば今でもオンデマンド出版で入手できることがわかった.それなのに,1971年に出た原典ファクスミリ復刻の150部限定出版のハードカバー版を買ってしまうワタシっていったい…….たった70ページそこそこの薄い本に執着し過ぎかもしれないが./同じく写本系譜推定の方法論を論じた Paul Maas の『Textual Criticism』(1958)もかつて国内をいろいろ捜し回ったことがあったが,結局,関西大学(だったか?)の図書館にしか所蔵されていなかった(独語原書にいたっては皆無だった).

—— 10年以上前に,『生物系統学』を書いているときは,写本系譜学の大方の文献は集中的に集めようとしていたが,論文は外部複写依頼で何とかなっても,書物だけはどうしようもなかった.もともと“畑違い”の分野だったこともあり,関連情報がぜんぜん入手できなかったという理由が大きい.オンラインでいろいろ調べられるようになってからは,ずいぶんと改善されたが,それでも実際の資料を手にできるまでの手間はあまり変わらない.所在が判明することとそれを手にすることとは別問題だ.

写本系統の確率モデルについては,1970〜80年代にかけて,イギリスの王立統計学会(The Royal Statistical Society)の紀要に数編載ったことがあるが(コピーは手元にある),その後の進展も気になるところ.多くの場合,比較言語学と写本系統学とはタイアップしていることが多いので(Henry M. Hoenigswaldの著作のように),歴史言語学関係のジャーナルに埋もれていることも考えられる.Tucker本にあった:Christopher Hitchcock (1998), The common cause principle in historical linguistics. Philosophy of Science, 65: 425-427 は完全に見落としていた.