『自然を名づける:なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか』

キャロル・キサク・ヨーン[三中信宏・野中香方子訳]

(2013年8月28日刊行予定,NTT出版,東京,本体価格2,800円,ISBN:9784757160569目次版元ページe-hon 近刊予約

本日,ホテルからNTT出版編集部へゲラ一式を宅急便で送ったので,翻訳作業はほぼすべて終わった.今回の翻訳:キャロル・キサク・ヨーン[三中信宏・野中香方子訳]『自然を名づける:なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか』はプロの翻訳家との共訳なので,つねにワタクシが強力な “律速段階” になってしまった.ワタクシの場合はたまたま修士の頃から翻訳を手がける機会があったので,この世界をちょっとだけ知っているつもりだが,ま,片手間にできるお仕事ではない.翻訳はラクじゃない.

文系の研究者に比べて,理系の研究者が翻訳に携わる機会はきっと少ないだろうし,アウトブットとしての業績評価はゼロに等しいだろう.それでも翻訳をするのは利他的精神の発露ということでして.もちろん,翻訳経験を積むということは個人的には損にはならないので,見方を変えれば利己的行為でもある.ただし,安易に手がけるとヤケドをするので,覚悟が必要.今回の翻訳は,プロの翻訳者の仕事の進め方を傍らから拝見するという役得あり.仕事は早いし,何よりも punctual だし,さすがだなあ.研究者にそのマネができるかと問われたら…….

もしも今後,ある本の翻訳を思い立ったとしたら,可能であれば職業翻訳家の手を借りるというのはかなりいい選択肢ではないかと思う.研究者は概して翻訳能力がないので,うまく分業していけばクオリティの高い翻訳書になるのではないか.もうひとつはサイエンスライターの力量.今回の著者キャロル・キサク・ヨーンは母親が日本人の日系人ショウジョウバエの進化生物学研究で学位をとった後にサイエンスライターに転身したという.科学の中も外も知っているこういう著者が書くことが大事なんだろう.