郭怡青(文)・欣蒂小姐(絵)・侯季然(映像)[小島あつ子・黒木夏兒訳]
(2019年6月27日刊行,サウザンブックス,東京, 432 pp., 本体価格2,600円, ISBN:9784909125125 → 目次|版元ページ|映像リスト《書店裡的影像詩Ⅰ-日文字幕版》 [YouTube])
読売新聞大評が公開された:三中信宏「台湾の書店をめぐる旅 —— 書店本事 台湾書店主43のストーリー…文/郭怡青、絵/欣蒂小姐 サウザンブックス 2600円」(2019年10月13日掲載|2019年10月21日公開)※台湾の「誠品書店」が日本にもオープンしたのでとてもいいタイミングで紙面掲載された.
台湾の書店をめぐる旅
日本の書店業界と同じく、台湾には「博客來」に代表される大規模ネット書店があり、「誠品書店」のような大手チェーン書店もある。以前、私は博客來から本を購入した経験があるが、繁体字を読み取る手間がかかるだけで、日本のアマゾンでの書籍購入とまったく同じお手軽さだった。その一方で、これらの大手書店に翻弄され、多くの小規模書店が苦境に立たされている現況もまた台湾と日本では変わりがない。
台湾には店主の個性が光る独立書店がいくつもある。本書は台湾全土に点在する43の独立書店を紹介した掛け値なく魅力的なガイドブックだ。専門分野や営業形態はさまざまだが、数々の障害を乗り越えて独立書店を切り盛りする店主たちの生の声が印象的だ。楽観できない状況のもとで、彼らがどのようにして“実体書店”としての経営を続けているのかについて率直に語っている。そこには台湾がたどってきた複雑な歴史と現在の政治情勢の影も垣間見える。
ある書店主は「ここ数年間、台湾には文芸開花の風が吹いているように感じられる。景気が悪いと言われているにもかかわらず、それぞれの理想に満ちた小規模な書店は続々と、台湾のあらゆる街角に芽吹いている」と語っている。実にうらやましい。小粒でもきらりと輝く独立書店が生き続けられるこの島の「美しき島フォルモサ」というかつての呼び名を思い出す。
全編にわたって店内のカラー写真やイラストがちりばめられているが、愉しみはそれだけではない。登場する書店ごとにはQRコードが付けられており、侯季然監督による短編映画『書店の詩』(『書店裡的影像詩』)へとリンクされている。日本語字幕付き1話3分のこのユーチューブ動画はすばらしい仕上がりで、独立書店ひとつひとつがもつかけがえのない物語を店主たちの肉声を通して聴くことができる。本書は活字・静画・動画の三点セットで読者を惹きつけて離さない。小島あつ子・黒木夏兒訳。