『全国マン・チン分布考』感想

松本修
(2018年10月10日刊行,集英社インターナショナル[インターナショナル新書・030],東京, カラー折込図版2葉+365 pp., 本体価格1,100円, ISBN:9784797680300目次版元ページ

真っ昼間に読むべき本である.冒頭の第1章「東京での「おまん」の衝撃」では方言周圏論に基づく「マン・チン分布図」が提示されている.結論はここでもう出ている.続く第2章「「虎屋」の饅頭へのあこがれ」,第3章「「チャンベ」「おめこ」らの愛すべき素性」,第4章「女性の心に生きる「オソソ」」,第5章「琉球に旅した『古事記』の言葉」はそれぞれのことばの歴史を探る.そして第6章「「チンポ」にたどり着くまで」と第7章「「マラ」と南方熊楠」はいきなりボルテージが上がるのがおもしろい.「門」に「牛」を配して【まら】と読む漢字があることを初めて知った.歴史的な論議はここまで.短い第8章「女陰語の将来」と第9章「今までの「おまんこ」研究」を経て,最後の第10章「「まん」を生きる人生」は第1章を受けて書かれた顚末.そして,結びの章「花咲く京の春の大団円」は言祝ぎのエンディング.すばらしい読後感.長い年月を行き来して昔と今をつなぐ.まだ読んでないんやったら書店に走れ.リアル書店やと恥ずかしい? あかんたれやなあ.しゃあない,ネット書店でワンクリックや!

著者の連載記事もある:Honz【連載】『全国マン・チン分布考(全5回)』(2018年9月13日〜10月5日).

『A Course in Morphometrics for Biologists: Geometry and Statistics for Studies of Organismal Form』詳細目次

Fred L. Bookstein
(2018年10月刊行, Cambridge University Press, Cambridge, xviii+527 pp., ISBN:9781107190948 [hbk] → 版元ページコンパニオンサイト

【目次】
Frontmatter i
Epigraphs v
Dedication vi
Preface xiii

1. What This Book Is About 1

 1.1 Overview: Where Morphometrics Draws Its Ideas 1
 1.2 Our Basic Orientation: From Arithmetic to Understanding 8
 1.3 The Professional Setting (A Brief Intellectual Story) 12
 1.4 A More Detailed Preview of Coming Attractions 18

2. Getting Started: One or Two Measurements Only 23

 2.1 Elementary Averages from an Intermediate Standpoint 26
 2.2 Lines for Laws 40
 2.3 Gaussian Distributions and Galton's Quincunx 59
 2.4 Correlation 86
 2.5 Further Useful Formulas for This Setting 100
 2.6 Other Data Structures 112

3. Multiple Regression, in General and in Special Settings 137

 3.1 The General Logic of Multiple Regression 140
 3.2 Added-Variable Plots 163
 3.3 Special Case 1: Analysis of Covariance 177
 3.4 Special Case 2: Growth Series 198
 3.5 Special Case 3a: Linear Discriminant Analysis 208
 3.6 Special Case 3b: Quadratic Discrimination 222

4. Transition to Multivariate Analysis 241

 4.1 Aspects of Covariance Structure: An Introduction 242
 4.2 The Singular-Value Decomposition and Its Applications in Morphometrics 264
 4.3 The Wishart Dstribution: Its Formula and a Sketch of Its Justification 290

5. Geometric Morphometrics: Its Geometry and Its Pattern Analysis 322

 5.1 The Data of Geometric Morphometrics: How We Keep Our Place in an Anatomy 327
 5.2 Pattern Descriptors for Landmarks Taken Three at a Time 361
 5.3 Procrustes Matters: The Least-Squares Approach to Morphometrics 384
 5.4 Procrustes Coordinates, a Different Set of Shape Coordinates 397
 5.5 Thin-Plate Splines 425
 5.6 Finishing the Main Examples, Along with Some New Ones 448
 5.7 Envoi 489

 

References 494
Index 506

 

Appendix URL: http://www.cambridge.org/9781107190948

『醤油』(第5〜10章)

吉田元
(2018年3月15日刊行,法政大学出版局ものと人間の文化史・180],東京, 2 color plates + iv + 269 pp., 本体価格2,600円, ISBN:9784588218019目次版元ページ

読了.日本の醤油の海外輸出(第5章),日本国内でのローカルな醤油(第6章),中国産の醤油(第7章)と続く.第8章「豆味噌と溜り醤油」は,東海地方ローカルな醸造製品であるいわゆる「八丁味噌」とそれを絞った「溜り醤油」に光を当てている.通常の濃口醤油は原料として大豆と小麦を等量用いるのに対し(p. 24),豆味噌(八丁味噌)は大豆のみを原料とする(p. 195).第9章では明治以降の近代を,そして最後の第10章は現代の醤油醸造と国内での地域差を取り上げる.日本酒醸造と醤油醸造は “姉妹群” の関係にある.重要な税収源である日本酒醸造は国による積極的なてこ入れがあったのに対して,より規模の小さな醤油醸造はそれほど重視されなかったために産業としての近代化が遅れたと著者は指摘する.

Cf: 第1〜4章の感想

『魂に息づく科学:ドーキンスの反ポピュリズム宣言』

[新]『魂に息づく科学:ドーキンスの反ポピュリズム宣言』

リチャード・ドーキンス[大田直子訳]
(2018年10月25日刊行,早川書房,東京, 524 pp., 本体価格2,700円, ISBN:9784152098078版元ページ

ご恵贈感謝.新たに編まれた500ページ超の論集.

『科学哲学の源流をたどる:研究伝統の百年史』

伊勢田哲治
(2018年11月20日刊行,ミネルヴァ書房[叢書〈知を究める〉・13],東京, x+316+36 pp., 本体価格3,000円, ISBN:9784623084319版元ページサポートサイト

【目次】
凡例 viii

序章 科学哲学の来た道 1

第1章 帰納と仮説をめぐる論争 11

 1. ジョン・ハーシェル 12
 2. ウィリアム・ヒューウェル 28
 3. ジョン・スチュアート・ミル 52

第2章 「サイエンティスト」の起源 73

 1. 「サイエンス」と「サイエンティスト」 73
 2. 「サイエンティスト」のその後 88

第3章 一九世紀のクリティカルシンキング 99

 1. 一九世紀までのクリティカルシンキング 99
 2. ウェイトリーとミル 108

第4章 実証主義の成立 137

 1. 観察可能な対象に科学のスコープを限る思想 138
 2. 「実証主義」という言葉の起源 161

第5章 19世紀末から20世紀初頭の科学哲学 185

 1. ドイツ語圏における科学哲学の展開 186
 2. 社会科学の哲学のおこり 211
 3. 英米の科学哲学 219
 4. フランスの科学哲学 233

第6章 論理実証主義へと続く道 245

 1. ウィーン学団につながるさまざまな道 245
 2. 哲学内部の運動としての科学哲学 260

 

注 274
あとがき 299
科学哲学関連年表 305
参照文献 [12-36]
事項索引 [6-11]
人名索引 [1-5]

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』

J・ウォーリー・ヒギンズ
(2018年10月30日刊行,光文社[光文社新書・969],東京, 454 pp., 本体価格1,500円, ISBN:9784334043759版元ページ

アメリカ軍属で日本に移り住むことになった著者は “鉄分” がとても多くて,日本人の “乗り鉄” や “撮り鉄” とみまごうばかり.1950〜60年代の古い写真は,褪色することもなくとても鮮やかにかつての日本を甦らせる.新書のカラー写真集はかねてよりそのコスパの良さを絶賛していたが,今回出たこの写真集もタダゴトではない.フルカラーの450ページ本がたった1,500円はありえへん.速攻読了したが,ほんの60年前の日本の道路はあんなに車が少なかったとは驚き.かつてワタクシが乗った経験があるオート三輪とかちゃんと走っている.

『全国アホ・バカ分布考:はるかなる言葉の旅路』

松本修
(1993年8月5日刊行,太田書店,東京, 446 pp.+カラー折込図版1葉, ISBN:4872331168

最新刊:松本修全国マン・チン分布考』(2018年10月10日刊行,集英社インターナショナル[インターナショナル新書・030],東京, カラー折込図版2葉+365 pp., 本体価格1,100円, ISBN:9784797680300目次版元ページ)を手にしたので,もう25年も前に出たこの本をひさしぶりに書棚から取り出した.方言周圏論に基づく日本全国の「アホ・バカ」の地理的分布を調べた本書はとても興味深い内容だった.だいぶ前にとある情報筋から聞いた話では,言葉に関するこのようなアンケート調査は本来なかなか難しいのだが,バックについたある “大物” の後ろ盾により,本書の調査は国語学的にはまれに見る成功例だったらしい.本書はその後,1996年12月に出版された新潮文庫[ま-15-1| ISBN:9784101441214]として再刊されたが,巻末の折込図版は含まれていないようだ(未確認).

【目次】
まえがき 2

第1章

 1. 「アホ」と「バカ」の境界線 18
 2. 全国アホ・バカ分布図の完成に向けて 28

第2章

 1. 「バカ」は古く、「アホ」はいちばん新しい 54
 2. 恐るべき多重の同心円 75
 3. 古典文学に潜むアホ・バカ表現 94

第3章

 1. 「フリムン」は琉球の愛の言葉 122
 2. 「ホンジナシ」は、本地忘れず 144

第4章

 1. 「アヤカリ」たいほどの果報者 166
 2. 「ハンカクサイ」は船に乗った 173
 3. 言葉遊びの玉手箱 185
 4. 分布図が語る「話し言葉」の変遷史 197

第5章

 1. 「バカ」は「バカ」のみにて「バカ」にあらず 212
 2. 新村出柳田國男の「ヲコ」語源論争 226
 3. 周圏分布の成立 236
 4. 学会で発表する 248

第6章

 1. 「アホンダラ」と近世上方 256
 2. 江戸っ子の「バカ」と「ベラボウ」 272
 3. 「アホウ」と「バカ」の一騎打ち 289

第7章

 1. 君見ずや「バカ」の宅 310
 2. 「アハウ」の謎 337
 3. 「阿呆」と「馬家」の来た道 350

エピローグ

 方言と民族のゆくえ 386

 

あとがき 403
アホ・バカ方言全国語彙一覧 410
参考文献 437
索引 [446-442]

 

カラー折込図版 1 p.

『全国マン・チン分布考』

松本修
(2018年10月10日刊行,集英社インターナショナル[インターナショナル新書・030],東京, カラー折込図版2葉+365 pp., 本体価格1,100円, ISBN:9784797680300版元ページ

かつて四半世紀前に読んだ:松本修全国アホ・バカ分布考:はるかなる言葉の旅路』(1993年8月5日刊行,太田書店,東京, 446 pp.+カラー折込図版1葉, ISBN:4872331168)は新刊で出たときにすぐ読んでとても感銘を受けた.その続編が出るとは実に感動的.新書なのに大きなカラー図版が折り込みで添付されている.これから楽しませていただきます.それにしても今月は新書が豊作だ.

【目次】
カラー折込図版 2 pp.

 

はじめに 7
第1章 東京での「おまん」の衝撃 13
第2章 「虎屋」の饅頭へのあこがれ 55
第3章 「チャンベ」「おめこ」らの愛すべき素性 93
第4章 女性の心に生きる「オソソ」 121
第5章 琉球に旅した『古事記』の言葉 167
第6章 「チンポ」にたどり着くまで 179
第7章 「マラ」と南方熊楠 197
第8章 女陰語の将来 279
第9章 今までの「おまんこ」研究 289
第10章 「まん」を生きる人生 305
結びの章 花咲く京の春の大団円 325
おわりに 346

 

出典および主要参考文献 358