「図書館は出版社の敵? 売り上げ悪影響を危惧」

日本経済新聞(2015年12月4日)
 → http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG02H9M_U5A201C1CC0000/

「新潮社など複数の出版社と大手書店、有名作家らは連名で、一部の新刊本は貸し出し開始を発売から1年間遅らせるよう、年内にも図書館側に要請」

洋書の場合,高価なハードカバー版は図書館用,大幅に安価なペーパーバック版は個人購入用と理解している.ところが,最近はハードカバー&ペーパーバックの二本立てではなく,ハードカバー&電子本になって,しかも電子本がけっして安いわけではない.実質的な値上げなのか.この傾向は学術書の場合で,一般書に当てはまるかどうかはわからないが.(公費購入した学術書の電子版がどのように “配架” されているのか,前から気になっているのだが,みなさんどうしているのだろう.未体験ゾーンなのでぜんぜん想像ができない.)

別件だが,「本を日本語で出版するよりも,外国語(たとえば英語)で出版した方が読者層がより広がる」という通説はほんとうなんだろうか? 確かに,言語ユーザーの数からいえば「潜在読者数」は多くても,実際に買って読んでくれる「実質読者数」ではどうなのかという問題.ワタクシが三年前に翻訳したある科学啓蒙書を例に取れば,翻訳本は幸い三刷まで重版されて,この手の本にしてはそこそこ売れている.そのことを原著者にメールしたら,とても驚いたようで,「アメリカではハードカバー&ペーパーバックを合わせてもそんなに売れていない」と.

その返事に今度はワタクシの方がびっくりした.内容的には一般向けの科学書なので,英語圏の潜在読者層の厚さから言えば日本語の比ではないはず.しかし,実際に本を買ってくれる実質読者数とは必ずしも相関しないということか.サンプルサイズが小さすぎて結論は出せないが.刷り部数が意外に少ないかも.専門的な学術書の価格の高さを見るときっと数百部しか刷っていないだろうと推測していたが,一般向きの本でもハードカバー版はその傾向があるのかもしれない.ペーパーバック版や電子版で部数を稼いでいるのでは.

旧共産圏(ソビエト・東欧)の本はマジで「この機会を逃したら即アウト」というスリル感があった.いまだと,中南米の出版物がそれに相当し,出版されているはずなのに,まったくヒットしない本がいくつもある.