『京大吉田寮』読売新聞書評

平林克己(写真)|宮西建礼・岡田裕子(文)
(2019年12月6日刊行,草思社,東京, 79 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-7942-2425-5版元ページ吉田寮記録プロジェクト

読売新聞ヴィジュアル評が公開された:三中信宏平林克己・写真、宮西建礼、岡田裕子・文 「京大吉田寮」 」(2020年5月24日掲載|2020年6月1日公開)



 洛東の京都大学吉田キャンパス南端にある吉田寮は1世紀を超える現存する日本最古の学生自治寮だ。このカラー写真集で初めて目にする読者は、まぎれもなく21世紀のいま営まれている日々のリアルな寮生活に、現実離れした異次元の気配を感じ取るだろう。

 お世辞にもきれいとは言いがたい吉田寮では、国籍や性別を問わず年齢による分けへだてもなく、多くの寮生たちがともに学びそして巣立っていく。評者がかつて2年間暮らした東大駒場寮にも確かにこういう寮生活特有の猥雑さとざわめきと匂いがあったが、すでに取り壊されて跡形もなく、かすかな記憶に残るだけだ。京大吉田寮に出入りする学生たちのしなやかでたくましい姿は、裏を返せば“絶滅危惧”の瀬戸際に立つこの学生寮の危うい現状を映し出している。この吉田寮を今あえてなくす理由はどこにもないですよね、総長。(草思社、2000円)

三中信宏[進化生物学者]読売新聞書評(2020年5月24日掲載|2020年6月1日公開)