『忘れられた日本人』感想と目次

宮本常一
1984年5月16日刊行、岩波書店岩波文庫・青164-1])、東京, 334 pp., 本体価格553円, ISBN:4-00-331641-X版元ページ

ワタクシが本書を読んだのはいつだろうかと検索してみたら、なんと四半世紀前の2001年12月10日にかつてのオンライン書店 bk1 に書評を投稿していた事実が判明した。読んだだけではなかった。もちろん、当時の書評リンクはとっくに消え去っているが、手元にある書評原稿をここにそのまま再録しておこう。



「仄暗い実話」の数々

本書のすべては実話なのだが,まさに民話のようだ.聞き取りをした著者の表現が魅力的なことももちろんだが,話し手の話力がとりわけ印象的.同時代にタイムスリップできたとしたら,さしずめ「現代民話」集とでも呼べるものなのかもしれない.「土佐源氏」や「土佐寺川夜話」が漂わせる仄暗さは,最近経験したことのないタイプのものだ.

宮本常一は,「私の祖父」や「世間師」では舞台上で自らを語っているが,それを除けば.背景で歩き回りながら黒衣に徹している.

今の社会に残されている「現代民話」も,あと数十年もすれば,こういう色合いが着いてくるのか,それとも消えていくだけか.


【目次】
凡例 5
対馬にて 11
村の寄り合い 36
名倉談義 59
子供をさがす 100
女の世間 105
土佐源氏 131
土佐寺川夜話 159
梶田富五郎翁 171
私の祖父 193
世間師(一) 214
世間師(二) 238
文字をもつ伝承者(一) 260
文字をもつ伝承者(二) 282
あとがき 304
注(田村善次郎) 311
解説(網野善彦) 321