『Phylogenetics』

Charles Semple and Mike Steel

(2003年2月刊行,Oxford University Press[Oxford Lecture Series in Mathematics and Its Applications: 24], Oxford, xiv+239 pp., ISBN:0198509421 [hbk] → 目次版元ページ

第8章「Markov models on trees」(pp. 183-217)の前半.スタイルに慣れているからか,生死に関わるようなクライシスは訪れず.マルコフ過程に基づく系統推定にとって必要となる3つの仮定:


M1) π[ρ]α>0, for all α∈C.

  ただしρ:root; C:形質;α:形質状態;

  π[ρ]α:根ρにおける形質状態がαである確率.

M2) det(P(e))≠ 0, for each eE.

M3) det(P(e))≠ ± 1, for each eE.

  ただし E:枝の集合;e:枝;P(e):枝遷移確率行列.

を確認.次いで,網状ネットワーク上の Markov random field への拡張ができることを知る(やっかいらしい).さらにこの手の議論の根幹である「Markov性」そのもの:


Pv=α|∧[w < v]ξw)=Pv=α|ξu)

  ρを根とする x-tree 上で定義されたノードの全順序関係

  (total order:≤)から直接祖先子孫順序「<」

  を定義する.根ρからノードvへの弧(直接祖先子孫順序

  の連結)を考える.vの直接祖先をu(u < v)とする.

がどのように機能しているかが課題となる.要するに,上の3つの仮定(M1M3)があれば,マルコフ過程によって生じた OTU集合 X に関する形質の情報から x-tree を“多項式時間”で推論することが保証されるということだ(Corollary 8.4.4, p. 193).X における OTU の対の間で双方向的にマルコフ移行する条件付き確率の行列(P xy)を求め,それを LogDet変換したメトリック(dissimilarity map)に基づいて一意的に x-tree を決定する.



8.5節「Stationary and reversible process」.時間可逆的な定常マルコフ過程論議.この本はボリュームはあまりないのだが,記述を端折ってしまう傾向がとても強いので,[生物系の]読者はきっと苦労しているにちがいない.読者に対する事前知識の要求レベルがとても高いのだと思う.数学系の読者であれば苦にならないのかもしれないが.rate matrix からのマルコフ過程の計算なんか「1行」ですませているもんね(レファレンスなしで).他人に説明するときは確率過程の教科書が傍に必要だ.個人的には,D. R. Cox and H. D. Miller 『The Theory of Stochastic Processes』(1965年,Chapman and Hall,ISBN:0412151707)があれば十分すぎる.



なお続く勉強・・・