鷲谷いづみ・武内和彦・西田睦
(2005年8月10日刊行,東京大学出版会,ISBN:4130633252)
ぱらぱらめくると,こんな1節が:
「ランドスケープ」という言葉は,もともと地域の人間・自然関係を表現するものであった.この言葉が,風景の意味合いを強めたのは,オランダやフランドルの画家たちの作品名に使われるようになったからである.彼らによって,「風景画」(ランドスケープペインティング)という独特の画法が生みだされた.その絵に表現されているものは,多くが農村におけるいきいきとした人間の営みである.彼らの作品によって,ランドスケープが,風景という意味合いを強めながら,欧米諸国に広がっていったのである.(pp. 74-75)
ピーテル・ブリューゲル(父)の作品にも言及するこのくだりは,読了したばかりのシャーマの『風景と記憶』に内容的に連なる1節だと思う.当時の「ジャンル・ペインティング」が「ランドスケープ・ペインティング」とどのようになめらかにつながるのかはおもしろい問題だが,このテーマに限らず,残念なことに,本書には「参考文献」がまったく載っていないので,関心をもった読者はそのまま放置されてしまう.この手の本で書籍リストや索引がついていないのは珍しいですよ(たとえ〈タテ書き〉本であっても).内容的には,ランドスケープ論を含めて,保全生態学から保全遺伝学まで,「保全」を中心テーマにした読み物になっている.想定される読者層からいえば,低価格なソフトカバーで出した方がよかったのではないですか?
【目次】
序章 生物多様性と生態系第1部 今なぜ生態系か
第1章 生態学と生態系
第2章 生物多様性と生態系の危機
第3章 求められる生態系の科学第2部 ランドスケープ−−生態系を俯瞰する
第4章 ランドスケープと生態系
第5章 生態系を支えるランドスケープ構造
第6章 地域の生態系再生第3部 生物多様性−−生態系と遺伝子をつなぐ
第7章 生物多様性と生態系の包み合う関係
第8章 再生事業からみた遺伝子・個体群・生態系
第9章 侵略的外来種の影響と対策第4部 遺伝子−−多様性のみなもと
第10章 遺伝子多様性のもつ意味
第11章 遺伝的変異と生物多様性
第12章 保全をめざす遺伝学第5部 生態系の保全と再生に向けて
第13章 生物多様性の保全
第14章 生態系の再生