『Wissenschaftstheoretische Untersuchungen zur Grundlagenploblematik der Phylogenetik』

Gerhard Fels

(1957年刊行, Rheinische Friedrich Wilhelms-Universität Bonn, ISBNなし)



本書は,生物系統学の哲学的基盤をめぐる論考で,ボン大学哲学部に提出された博士学位申請論文である.たまたま運よくドイツの古書店から入手できた1冊は,ボン大学の教育学研究所(Institut für Erziehungswisseschaft)の蔵書からの処分品だった(備品番号「6268」,蔵書番号「Va 241」).この本は,ドイツ語圏の理論体系学書に引用されたのを見たことがあるが,それ以外ではほとんど言及されることがない.おそらく一般の商業出版物の流通ルートには乗らなかったと思われる.タイプ打ちの原稿をそのまま製本したような装丁だ.本論文の学位申請者 Gerhard Fels に対する口頭試問日は「1956年1月25日」と記されている.学位取得後の著者がどのような研究活動を続けたかはよくわからない.(同名のもっと若手の経済学者の方が名前が売れているようだ.)

著者の経歴はともかく,1957年という第二次大戦後の比較的早い時期に,こういう内容の研究がなされていたことは注目されてよいだろう.全体をブラウズしてみると,Adolf Naef の観念論形態学,Walter Zimmermann の系統学,そして Adolf Remane の比較解剖学など,この時代の主要な生物学者の理論が論じられているようだ.しかし,Willi Hennig にはまったく言及されていない.このあたりがとても不思議なのだが,時期的なことを考えると Hennig (1950)『Grundzüge einer Theorie der phylogenetischen Systematik』はすでに流通していたはずで,内容的にも本書で取り上げられてしかるべきだろうに,その形跡がまったくない.同様に,Adolf Remane『Die Grundlagen des natürlichen Systems, der vergleichenden Anatomie und der Phylogenetik I』の初版(1952年)と改訂版(1956年)にも Hennig はぜんぜん登場しない.意図的に無視されたとはちょっと考えられない.

ひょっとして Hennig (1950) のサーキュレーションは,とてつもなく悪かったのではないだろうか.第二次世界大戦が終わるまでにすでに完成していた Hennig の原稿が1950年まで出版されなかった理由は,戦後の極端な紙不足に他ならなかったと本人が書いているからだ.とすると,たとえ敗戦5年後に出版が解禁されたとしても,その印刷部数は極端に少なかったという可能性がある.ドイツ国内であっても,それを読むべき人が手にできなかったかもしれない.あるいは,当時すでに東西に分割されてしまったドイツ固有の書籍流通事情でもあったのか.いずれにせよ,言及されるよりも言及されなかったことの方がよけいに関心をそそる.思いつくままに挙げると,1950年代前半の時点で,本書の著者 Gerhard Fels や Adolf Remane は「言及しなかった」グループ,一方,Sergei Kiriakoff や Kraus Günther は「言及した」グループに属している.その違いが生じた原因は何なのか.




【目次】
Einleitung 1

Hauptteil

1. Das Grundproblem 15
2. Zum Schöpfungsproblem 18
3. Die naturwissenschaftliche Fragestellung 25
4. Idealistische Morphologie und Phylogenetik 29
5. Die Streitfragen der idealistischen Morphologie und der Phylogenetik 35
6. Urbild und Ursache 42
7. Zur Kritik der idealistischen Morphologie 45
8. Begründungsversuch der typologischen Methode 52
9. Von der typologischen zur phylogenetischen Systematik 77
10. Die logische Dignität des phylogenetischen Systematik 81
11. Das Methodengefüge der Phylogenetik 98
12. Phylogenetik - eine historische Wissenschaft? 120
13. Ein philosophischer Lösungsversuch - Die Potenzenmetaphysik von H. Conrad-Martius 155
14. Zum Entwicklungsbegriff 180
15. Anthropologische Konsequenzen 198


Literaturverzeichnis 213
Lebenslauf 221