Sergius G. Kiriakoff
(1956年刊行, Uitgeverij De Sikkel, Antwerpen, xii+167 pp. → 目次)
ライデンの Backhuys 書店からフラマン語の生物体系学の本が着便した.長年探しまわっていた稀覯書だったのでうれしいな.タイトルを訳せば:『生物学を学ぶ者のための動物体系学入門』となる.古ぼけたペーパーバック版だが活字の印字圧がしっかり実感できる.半世紀前の第二次世界大戦終戦前後に出版された本は紙質がきわめて悪く,またいずれも入手しにくい.さいわい本書は造本もまだ崩れていないので,安心してページをめくることができる.
Kiriakoff の前著:Sergius G. Kiriakoff『De huidige problemen van de taxonomische terminologie in de dierkunde』(1948年刊行,Paleis der Academiën[Verhandelingen van de Koninklijke Vlaamse Academie voor Wetenschappen, Letteren en Schone Kunsten van België, Klassen der Wetenschappen, Vol. 10, No. 27], Brussel, 50 pp. → 紹介)の内容と比較してみると,おもしろいことがわかる.『動物学における分類用語の現代的問題』と銘打たれたこの本では,20世紀前半の種概念論議,とくに1930〜40年代の「現代的総合」の洗礼を受けた直後のありようが感じ取れる.とくに,【種】の生物学的概念を分類学の中にどのように取り込んで,分類体系や命名をしていけばいいのかが本書の中心テーマだった.
一方,今回届いた本では,Willi Hennig の系統体系学の直撃弾を受けた影響がはっきり見られる.本書は「de “vader” van de moderne fylogenetische systematiek」たる Hennig に献呈されているのだが,前著では見られなかった系統的分類体系の解説に多くのページが割かれている.ざっとブラウズしたかぎりでは,Willi Hennig『Grundzüge einer Theorie der phylogenetischen Systematik』(1950年刊行,Deutscher Zentralverlag, Berlin, vi+370pp.)を踏まえた説明のようだ.Kiriakoff の本書は Hennig 理論のもっとも初期の波及の様相がどのようなものだったかを知る手がかりを与えてくれる.