『曼荼羅イコノロジー』

田中公明

(1987年8月10日刊行,平河出版社,東京,316 pp., ISBN:4892031224

1990年代はじめ,統計研修の質疑の場の勢いで「統計曼荼羅」を手書きしたのがそもそものきっかけ.タントラも何も知らずにいるのはまずい.少しは密教の世界観を知らずにはすまされないだろうと思って手にしたのが本書だった.世の中の景気が今よりももっとよかった当時,一種の「曼荼羅ブーム」が日本を駆け抜けたことを著者は冒頭で記している.ワタクシにはぜんぜん記憶がないのだが,世紀末はそういう「スピリチュアル」なものへの社会的要求が高まったのだろうか.

チベットでは「砂曼荼羅」が本式であって,修行のたびに壊される宿命にあったとか.紙に描かれたからこそ後世に伝承されたのだが,鉛筆の手書きをスキャンしてjpeg画像で公開しているようでは話にならないのかもね.いずれにしても,金剛界曼荼羅胎蔵界曼荼羅という図像により密教的世界観がどのように視覚化されていったのかについて,本書を通して自分なりの理解が深まったことは収穫だった.二十年ぶりに読み返してみると,曼荼羅の図像世界に関してものすごく詳細にわたって解説されていたことがわかる.入門書ではけっしてない本だった.

そういえば,十年ほど前,トゥプテン・ジンパ(監修)《マンダラ・コスモロジーチベット仏教の知恵と心の芸術》(2000年刊行,デジタローグ発行/トランスアート発売,東京,ISBN:4887520212[CD-ROM and booklet] → 情報)というCD-ROMが発売されたことがあった.インドの密教修道僧たちが砂曼荼羅を描く過程を動画記録した作品だった.曼荼羅を砂で書く濃密な時間の流れが張りつめた緊張感とともに伝わってきた.

【目次】

第1章 マンダラ入門

 マンダラとの出会い
 曼荼羅の理論と哲学

第2章 曼荼羅の歴史と発展

 大乗仏教の成立と展開
 曼荼羅の誕生と発展
 胎蔵界曼荼羅
 金剛界曼荼羅
 無上瑜伽タントラ

第3章 曼荼羅の描き方

 曼荼羅の描き方
 曼荼羅諸尊の配置と象徴性

第4章 チベットと日本の曼荼羅

 タントラの分類
 所作タントラの曼荼羅
 行タントラの曼荼羅
 瑜伽タントラの曼荼羅
 無上瑜伽タントラの曼荼羅
 ニンマ派曼荼羅


尊名一覧
 金剛界曼荼羅尊名一覧表 254
 胎蔵界曼荼羅尊名一覧表 257
 『金剛頂経』十八会一覧 267
 外金剛部対照表 268
 薬師五十一尊曼荼羅尊名一覧表 270
 『秘密集会』聖者流阿[しゅく]三十二尊曼荼羅尊名一覧表 272
 ヘーヴァジュラル九尊曼荼羅・尊名一覧表 274
 サンヴァラ六十二尊曼荼羅 274ダーカアルナヴァ心滴輪尊名一覧表 276
 ニンマ派のマハーヨーガ十八大部 278
 ワンチュクマと二十天后 279


索引 283


あとがき 314