ユージニア・ボーン[吹春俊光監修|佐藤幸治・田中涼子訳]
(2016年1月27日刊行,ピエ・ブックス,東京, 427+IV pp., 本体価格2,300円, ISBN:9784756244055 → 目次|版元ページ)
テーマ的にはとても興味深い新刊なのだが,実に残念なことに,この訳本では原書:Eugenia Bone『Mycophilia: Revelations from the Weird World of Mushrooms』(2011年11月刊行,Rodale Books, New York, ISBN:9781605294070 → 版元ページ)にはあるという「かなり詳細なリファレンス」(p. 427)が全削除されているので,資料的価値はゼロというしかない.それがわかった時点で,ワタクシは速攻で原書をオンライン発注した.
本書に限らないが,日本語訳に際して文献リストとか索引を省略する出版業界のワルい習慣はただちに悔い改めてもらいたい.不完全な訳本を出版しているという道義的責任を感じてほしい.本書の「リファレンス」は「紙数の都合で割愛せざるを得なかった」(p.427)そうだが,どんな都合やねん.言うてみぃ.100ページも200ページもあるわけない文献リストを削ったところで価格だってたいして下がるわけではないだろう.何よりも「リファレンス」を見たい読者に原書購入というさらなる出費を強いるのはまさに “不完全訳本” の証というしかない.
要するに,ある主張を支える証拠や出典を明示することはとても大事であるという基本認識が欠けているからだろう.翻訳出版だけではない.日本の新聞のほとんどすべての科学記事で,原著論文の出典明記やURLリンクがまったくなされず,たとえば「イギリスの学術誌に掲載された」みたいなアホ言及しかしないのと同じ穴のムジナだ.
マリアナ海溝よりも深く深く反省してほしい.
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