『鳥瞰図!』

本渡章
(2018年7月18日刊行,140B,大阪, 191 pp., 本体価格1,600円, ISBN:9784903993355目次版元ページ

タイトルに惹かれて手にした本だったが,想像していた以上に収穫が多かった.全編にわたり鳥瞰図や地図のカラー図版が満載だった.元の図版自体が巨大なものも少なくないので,細かいところを読むだけの強靭な視力が求められる.

第1章「吉田初三郎が見たパノラマの夢」では,一世紀前の大正から昭和にかけて “鳥瞰図絵師” として大活躍した吉田初三郎の作品がずらりと並ぶ.江戸時代の浮世絵の伝統と明治以降の西洋画の様式をミックスした独自の画風で,全国の名所図会や鉄道案内を “鳥瞰図” として描いた吉田が,どのような視点で三次元的な地図描画スタイルを確立したかが考察されている.

続く第2章「遊覧、パノラマ、花開く鳥瞰図バラエティ」では,現実と非現実の境を行き来する鳥瞰図やパノラマ地図の作画法の多様化と変遷をさまざまな作品を通して分析している.

最後の第3章「江戸時代から現代へ。鳥瞰図進化論」では,鳥瞰図の祖とみなされる五雲亭貞秀の画業を振り返り,その画風の系譜を見る.

現在では地図作成(カルトグラフィー)はインフォグラフィックスのひとつとみなされている.実際,本書で取り上げられているさまざまな “鳥瞰図” に類似するタイプの可視化デザインは,マニュエル・リマ[三中信宏監訳|手嶋由美子訳]『The Book of Circles —— 円環大全:知の輪郭を体系化するインフォグラフィックス』(2018年2月26日刊行,ビー・エヌ・エヌ新社,東京,278 pp., 本体価格3,800円, ISBN:9784802510707版元ページコンパニオン・サイト)の「Fanily 6: 地図と計画図」にも見られる.

リマはもう一冊の:マニュエル・リマ[三中信宏訳]『The Book of Trees —— 系統樹大全:知の世界を可視化するインフォグラフィックス』(2015年3月19日刊行,ビー・エヌ・エヌ新社, 東京, 215 pp., 本体価格3,800円, ISBN:9784861009563 [hbk] → コンパニオン・サイト版元ページ)の日本語版序文のなかで,葛飾北斎の連作浮世絵〈富嶽三十六景〉の一枚である「神奈川沖浪裏」を取り上げ:

「データ視覚化を説明する簡潔なアナロジーとして、私はこれまで何度もこの浮世絵を取り上げた。すなわち、富士山がさまざまな角度と視点から描かれたのと同様に、いかなるデータセットや関心のある主題も描けるだろう」(p. 8)

と述べている.日本で花開いた浮世絵の系譜に連なる “鳥瞰図” の文化はわれわれの想像以上にもっと広い一般性・普遍性をもっている証左ではないだろうか.『鳥瞰図!』はさまざまな点で読者の興味を掻きたてる本だ.とても良書.