『Letzte Zuflucht Schanghai: Die Liebesgeschichte von Robert Reuven Sokal und Julie Chenchu Yang』

Stefan Schomann

(2008年刊行, Wilhelm Heyne Verlag, München, 239 pp.+32 color plates, ISBN:9783453152601 [hbk] / ISBN:9783453645257 [pbk] / ISBN:9783641038366 [ebook] → 情報版元ページ著者サイト

先月,ドイツはハンブルク近郊のSchenefeldにある古書店Arvelle Buch- und Medienversand〉から届いた.1960年代に“数量分類学派”を立ち上げた Robert R. Sokal(1926〜2012)とその妻 Julie Chenchu Yang(楊珍珠 1924〜)の伝記本.本書『旅路の果ての上海:ロバート・ルーヴァン・ソーカルとジュリー・チェン・チュー・ヤンの愛の物語』は,節ごとに Robert と Julie の「一人称」でかわるがわる語られるつつストーリーが進行する.

第二次世界大戦前にヨーロッパを席捲した反ユダヤ主義から逃れるべく,ウィーンで画材屋を営んでいた両親とともに Robert が上海の外灘(バンド)北側に当時あったユダヤ人隔離居留区(ゲットー)にたどり着いたのは 1939 年春のことだった.その後,上海の St. John's University で寧波出身の Julie と知りあって結婚.しかし,当時の上海共同租界では,西洋人男性が亡命先で地元の中国人女性と結婚することは,社会的には「skandalöser Irrweg」(S. 8)とみなされたらしい.太平洋戦争が勃発して上海の支配権が日本に移ってからも「無国籍避難民」として終戦後まで上海に居留し続けた.Sokal 夫妻が上海のユダヤ人租界で暮らした時期は終戦をはさんだ十年間におよび,最終的に President Wilson 号で上海からカリフォルニアへ出港したのは1948年のことだった.

本書には1930〜1940年代の「上海」を写した古いカラー写真がたくさん載っている.横光利一の小説『上海』の時代背景は1920年代で,映画〈上海バンスキング〉はその十年後の1930年代後半を描いている.したがって,本書はそれに続く時代の物語とみなせる.亡命ユダヤ人の一家が上海共同租界のゲットーで過ごした年月と時代背景の移り変わり,すなわち「ゲットーの黄昏(Ghettodämmerung)」は,大戦前後の西洋と中国そして日本との複雑な国際関係を反映している.Robert Sokal がアメリカに入国したのちの学問的経歴と業績については,生物体系学の現代史そのものであるからよく知られている.この伝記はそれに先立つ空白期間を埋める記述としてたいへん興味深い.

【目次】※ Robert / Julie
Prolog 7

I. Alte Welt 11

Die Sokal'schen Farben 13
Das kaiseriche Schwert 23
Auf gut Deutsch 36
Glorreiches China 42
Phönix-Versicherungen 53
Die Stadt der Fremden 62
Der 35. Mai 73


II. Ferne Stadt 83

»Jetzt sind Sie nur noch Juden« 85
Das spanische Haus 100
Oh du entsetzliche Stadt 111
Zuflucht im Tempel 129
Eine Art Lähmung 138


III. Neue Zeit 153

Ghettodämmerung 155
Yangs Dorf 167
Bon ami 173
Briefe einer Pessimistin 183
Spaziergang in der Love Lane 189
Kostbare Perle und Strahlander Ruhm 204
Die letzten Tage von Schanghai 210
»Der Bub ist da!« 220


Epilog 228


Dank 233
Quellen 235
Bildnachweis 239