『How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing』実践篇

Paul J. Silvia

(2007年刊行,American Psychological Association , Washington DC, xii+149 pp., ISBN:9781591477433 [pbk] → 書評目次版元ページ

How to Write a Lot:ひとつの実践



きのう公開した書評:三中信宏研究者がとにかく「たくさん書く」ための心得集」で紹介したスローガンとモットーは,ただ読み終えただけではなく,実際に自分の仕事にあてはめてみてはじめてその威力がわかる.そこに書かれている「たくさん書く」ためのワザの数々をワタクシがずっと抱え込んでいたある翻訳作業に実際に適用してみたところ,マジでものすごく原稿仕事がはかどった.せっかくの執筆経験だったので,その経緯を備忘メモとして記しておく.



マニュエル・リマ[三中信宏訳]『系統樹大全:知の世界を可視化する一千年の試み[仮]』(2015年3月刊行予定,ビー・エヌ・エヌ新社,東京 → 目次原書)の翻訳依頼を受けたのは,昨年9月30日のことだった.その後,10月半ばになって翻訳作業の段取りとおおまかな日程について打ち合わせをしたとき,本書は出版社側のつごうで年度内の翻訳刊行が必須であると聞いた.担当編集者が即座に「逆算スケジュール」を作成してくれたが,締め切りのある書き物ではよくあることだ.



その予定によると,11月末から12月末までの1ヶ月で本文の翻訳を完了し,年明けから流し込み開始との予定だった.しかし,例によって,11月から12月にかけてはワタクシの統計研修やら地方巡業などの所用がたびかさなり,とても翻訳する時間がなくってずるずる遅延するといういつもの調子に陥っていた.



そして,12月もなかばを過ぎたある日,担当編集者から「正直なところ、このペースですと3月発売もなかなか厳しくなってきている」との最終通告がメールで届いた.万事休すかと追い込まれたちょうどこの頃,今回書評した本:Paul J. Silvia『How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing』(2007年刊行,American Psychological Association , Washington DC, xii+149 pp., ISBN:9781591477433 [pbk] → 書評目次版元ページ)を読み進んでいた.グッドタイミングで「これ使えるかも」と思い立ったしだい.



即座にやったこと:



  1. ワタクシと担当編集者のための共有フォルダーを Dropbox に開設.
  2. 年末の仕事納めと同時に全時間を翻訳に割り振るというスケジューリング.
  3. 章ごとの進捗を細かく担当編集者に通知&返信という加圧システムの構築.


年末年始という特別な期間だったことが幸いして,【時間確保】【計画厳守】【弁解無用】の三つのスローガンが堅持できた.



【細分目標】については,各章をパラグラフごとあるいはキャプションごとに分割し,終わるたびに「〜字翻訳だん」とツイートして,タイムスタンプ付きの進捗メモ.これは【公開加圧】にもなり一石二鳥.最後の【拙速主義】については,翻訳という性格上,草稿段階での “初期値” がひどいと,訳し直しに匹敵する労力が必要なので,ほぼ完成状態(=外に出しても恥ずかしくないレベル)の “初期値” になるように心がけた.



そんなこんなで,スタートしてからほぼ3週間ですべての翻訳作業を完了した.これだけ短期間でやり終えたのは初めての経験.結果的に,当初の予定よりも前倒しで翻訳が終わってしまった.そして,今回の執筆経験を通じて,schedule-follower が最後には勝つことを確信した.binge-writer に明日はない.平常時にも同じような物書きスタイルが貫徹できれば,もうコワいものはきっとないだろう.



三中信宏(2015年1月16日)