Paul J. Silvia
(2007年刊行,American Psychological Association , Washington DC, xii+149 pp., ISBN:9781591477433 [pbk] → 実践篇|書評篇|目次|版元ページ)
くよくよ悩むな,もっと書け
第6章「Writing Journal Articles」には,投稿論文がリジェクトされたときの研究者の心理についても書かれている.この章の「 “But What If They Reject My Paper?” 」(pp. 98-101)の節では,「達成動機づけ」の一般理論に言及しつつ,「達成成功」と「失敗回避」のふたつが当事者の行動に影響すると述べる.そして,研究者がジャーナルに論文を投稿するとき,「失敗回避」がとくに大きな心理的影響を及ぼすと指摘する.つまり,「投稿論文がリジェクトされたらどうしよう」とくよくよ悩む研究者の心理状態を指している.
著者はこの「失敗回避」という研究者なら誰もが経験する心理に対して,きわめて明快な回答を用意する:「くよくよしなさんな.アナタの投稿論文はどうせリジェクトされるだろうから」と.著者は,意思決定理論から言えば,不確定状況での意思決定には基準率(base rate)がもっとも合理的なよりどころになる.リジェクト率が80%のジャーナルに投稿したら,アクセプトの確率はたった20%しかない.だから,ハイランクなジャーナルほど「リジェクトされて当たり前」なんだから,くよくよ悩む方が意思決定論的にはそもそもおかしいだろうと著者は言う.どうせ高い確率でリジェクトされるんだから,失敗回避しようと思う方がムダ.
その上で,投稿してしまった論文についてあれこれ悩む時間があるんだったら,その時間を「もっとたくさん書く」のに使った方がはるかに有意義だろうと著者は持論を展開する.
たくさん書けば書くほどどんどんリジェクトされる ― これは書くことに対する “所得税(salary tax)” なんだから気にするな.それよりも,「学科内でダントツでリジェクトされまくっている研究者」になれと著者は結論する.
こんなふうに「前向き」に論文を書き続けるよう,彼の国の研究者たちは吹き込まれているのか.
三中信宏(2015年1月17日)