『生物学の哲学入門』(短評)

森元良太・田中泉吏

(2016年8月30日刊行,勁草書房,東京, iv+222 pp., 本体価格2,400円, ISBN:9784326102549目次版元ページ

21世紀の生物科学はとりわけめざましい分子データの蓄積により,これまで未解明だったさまざまな諸問題に新たな光を投げかけている.しかし,それと同時に,生物学が依拠してきた概念や理論の体系には[科学]哲学の側から論じることができる要素がいくつも含まれている.たとえば自然淘汰をめぐる因果性の問題や,種あるいは高次分類群に関わる存在論的問題を論じるにあたっては,データ駆動型の研究ではなく,むしろ仮説駆動型のアプローチの積極的な活用が有意義だろう.1970年代以降の「生物学の哲学」はまさにそのような方向性を目指してきた.本書のようなバランスの取れた入門書の出版は多くの日本人読者にとって朗報だろう.