『糸と痕跡』

カルロ・ギンズブルグ[上村忠男訳]

(2008年10月24日,みすず書房,266 pp., 本体価格3,500円, ISBN:9784622074366目次版元ページ

本書は,Carlo Ginzburg『Il filo e le tracce』(2006年刊行,Giangiacomo Feltrinelli Editore, Milano)として刊行された論文集の15論文と付録から六つの論文を選んで翻訳されたものである.編訳者あとがきによると,残りの所収論文のいくつかはすでに:カルロ・ギンズブルグ[上村忠男訳]『歴史を逆なでに読む』(2003年10月24日,みすず書房,305 pp., 本体価格3,600円, ISBN:4622070642目次書評版元ページ)として刊行されている.『歴史を逆なでに読む』の第2章「展示と引用 —— 歴史の真実性」は,今回出版された論文集の「I-1 描写と引用」と重複しているが,内容が大幅に書き換えられたので新たに訳出したと記されている.
このように,『糸と痕跡』と『歴史を逆なでに読む』は姉妹本だが,すでに翻訳されている:カルロ・ギンズブルグ[上村忠男訳]『歴史・レトリック・立証』(2001年4月16日,みすず書房,212 pp., 本体価格2,800円, ISBN:462203090X目次書評版元ページ)も,このクレードに属する近縁本だ.著者が,ヘイドン・ホワイトに代表される歴史学におけるポストモダン懐疑主義構築主義)に抗するスタンスを一貫して取り続けてきたことは知られている.これら3冊の論文集は,「歴史の語りの科学性にたいして加えられた懐疑論的な攻撃」に対していかにして反論するかという共通テーマを掲げている.
タイトルの「糸」とは「わたしたちが現実の迷宮の中に入っていくのを手助けしてくれる物語の糸」(p. 5)であり,「痕跡」とはそれ「を利用しながら真実の歴史を物語ろうと努め」(p. 5)るための証拠という意味だ.膨大な脚注と引用の洪水は快楽以外の何ものでもない.