「なぜ日本人は辞書が好きなのか?」

ここ十年ほどは,方々から辞書項目執筆の仕事を引き受ける機会が多かった.とくに,学会の記念事業としての辞書づくりを立案するケースが頻発している.御祝儀饅頭みたいで芸がないと思うのだが,日本人は辞書が好きなのだろうか.字数の差はあるが,書くべき中核的内容にさほど大きなちがいはないので,同一執筆者が手がけるかぎり,「似てしまう」のはしかたがない.かつて,静岡大にいた阿部勝巳さんといっしょに「百科事典の恐竜解説文のテキスト系譜」を調べようというウラ企画がかつてあった.阿部さんが集めた範囲の資料によれば,かなりきれいな系統関係があるらしい.しかし,その後,彼が交通事故で亡くなり,立ち消えになってしまった.たとえ個々の項目内容が同一であっても,項目の取捨選択や編成方針で差別化することもできただろう.しかし,複数の辞書がほぼ同じ項目リストを挙げていることがわかって,そういう「免罪符」は通用しないことを悟った.日本の[紙の]辞書の場合,「本」としての形式の制約(字数制限とか物理的分量)が収斂しているので,新奇性がなかなか打ち出せないのかもしれない.Stanford Encyclopedia of Philosophy みたいな字数無制限のオンライン百科がいいなあ.