『文化系統学への招待:文化の進化パターンを探る』響音(1)

中尾央・三中信宏(編著)

(2012年5月25日刊行,勁草書房, 東京, x+213+xi pp., 本体価格3,200円[税込価格3,360円], ISBN:9784326102167目次版元ページコンパニオン・サイト響音録

梅雨入り前に早くも台風接近中:

たぬき日乗

「読書:『文化系統学への招待:文化の進化パターンを探る』」(2012年6月4日)
http://d.hatena.ne.jp/Raccoon1980/20120604/1338774542


確かに,「文化」とか「オブジェクト」の定義あるいは性格付けは,この論文集では各執筆者に委ねている.そもそもそういうユニットが定義できない個物であることは暗黙の仮定として“放置”しておくのが個人的には安全策だと思うからだ.文化の「系統」だけでも十分に問題リッチなのに,そこに形而上学的な難問を積み重ねるのは得策ではないだろう.関心のある読者は,すでに御祓済みであるワタクシの『分類思考の世界』をひもとけばいい.



もう一点,系譜を形成するオブジェクトの存在論に踏み込まずにすませるために,ワタクシの章では「関係の代数」をつかって系譜が形式的に構成できることを利用した.祖先や子孫が時空的にどのように存在するかではなく,それらがどのような関係にあるのかに着目するという視点である.1970年代のパターン分岐学が進化樹でも系統樹でもない分岐図(cladogram)を提唱して以来,系譜は存在論ではなく関係論として取り扱うことができるようになった.この新たに拓かれた概念的世界の中に文化系統学は位置づけられる.一般化された系統学がオブジェクトに依存しない体系をもつことは,1970年代の生物体系学論争からの直接の帰結だろうとワタクシは考える.


文化の「系統」を共通基盤の上で論じられるようになったのは過去半世紀ほどかかった「露払い」があったからだ.

以上,2012年6月6日午前6時時点