「図書分類と図書系統:図書館総合展〈分類フォーラム〉での議論から」

第17回図書館総合展の会期中,2015年11月12日(木)にパシフィコ横浜・会議センター501号室で開催された〈分類フォーラム〉第一部(13:00〜14:45)でのワタクシの高座は Ustream で録画が公開されている:第17回図書館総合展チャンネルE ― 分類フォーラム[第一部三中信宏「ヒトはつい、分類してしまう生き物だった」→ Ustream.録画では 5:30 あたりから第一部が始まり,質疑を含めて100分という長丁場だった.

この〈分類フォーラム〉では分類と系統に関するいつものお話が中心だったのだが,図書を対象とする分類と系統についても触れたので,ワタクシの見解を以下にまとめておく:

  • 図書をオブジェクトとする「分類」は修辞学的には「メタファー(隠喩)」によるクラスタリング(グルーピング)である.メタファーによる「図書分類」は,オブジェクト間の類似度の定義(分類基準)さえ明示されているかぎり,整理と検索に有効である.
  • 一方,図書をオブジェクトとする「系統」は「メトニミー(換喩)」であり,棚に並べられた有限個の図書を “部分” としてその背後に仮定される “全体” へのつながりを見せようとする.この意味でメトニミーに基づく「図書系統」は図書配列者の意図・主張・主義に基づく体系化である.
  • 日本十進分類法(NDC)については本フォーラムの第二部で議論されることになっているが,そのような分類基準に基づくメタファー的「図書分類」はグローバルすなわちパブリックな基準としては有効だろう.一方,メトニミー的「図書系統」はその背景の意図・主張・主義が読み取れるローカルあるいはプライベートな範囲でのみ通用するだろう.
  • 海老名市立中央図書館のケースでいえば,CCCが導入した「ライフスタイル分類」はメトニミーに基づくひとつの図書系統である.それはローカルであるべき図書系統をグローバルに適用した点でまちがいであることはもちろん,図書配列者(この場合はCCC)側のプライベートな意図・主張・主義を “企業秘密” として隠蔽しつつパブリックに押し付けた点で二重の過ちを犯してしまった.
  • したがって,CCCが主張する「ライフスタイル分類」はメタファーに基づく図書分類を構築する方法論として使いものにならないだけでなく,メトニミーをふまえた図書系統としても機能不全であると言わざるをえない.
  • 結論として,CCCの「ライフスタイル分類」は図書分類と図書系統の根本的な差異を見逃した点で致命的であり,残念ながら改善の余地はないだろう.

海老名市立中央図書館をめぐる TRC vs. CCC の現在進行形の駆け引きを傍から眺めていて,今回のトークに絡ませることも最初は考えた.しかし,その論点で “炎上” されたのではワタクシの意図からは外れてしまうと考え,高座では社会問題化している「CCC問題」はあえて “封印” した.ところが,講演後の質疑討論の中でまさにその「CCC問題」がいきなり浮上してきたのは実にタイムリーな渡りに船だった.録画を見ればすぐわかるように,分類フォーラム会場での質疑の中では,上記のように CCCの「ライフスタイル分類」が二重の意味でまちがい犯している点,さらにそれに対する TRC の対応は正しかった点を指摘した.

海老名市立中央図書館の図書分類問題に関するワタクシの考えはTRC谷一文子会長の発言を踏まえている.その記事の中で,CCCの「ライフスタイル分類」について,谷一会長は「率直なところ、あの分類は図書館としてはノーだ」と明言しているからだ.したがって,あくまでも図書分類の「方法論」についてのTRC見解は「正しい」とワタクシは言ったわけで,海老名の件でTRCがなぜCCCとすっぱり縁を切らなかったのかなどなどの(おそらくは政治的な)点についてはまったく別次元の問題だと考えている.

そもそも,オブジェクト体系化を修辞学(メタファー/メトニミー)から考察するという視点は,四半世紀前に出版された:Patrick Tort『La raison classificatoire : quinze études』(1989年4月刊行,Éditions Aubier[Les complexes discursifs 2], ISBN:2700718534 [pbk] → 目次)で初めて知った.その本に啓発されて,ワタクシの『分類思考の世界』の第4章「真なるものはつねに秘匿されている」では,分類=メタファーと系統=メトニミーを対置して論じた.つい最近も,読書猿Classic: between / beyond readers「検索と〈探しもの〉の力を拡張する、レトリックが教える3つの考え方ー図書館となら、できること」(2015年10月3日)という記事を読んだ.修辞学的視点はこのような分類の論議にとって効果的なのだろう.

「図書をどのように体系化するか」という大きな問題は図書館情報学の「中」と「外」の両方向からアプローチできるにちがいない.