『L'Analyse des Données, Tome I: La Taxinomie, Deuxième édition』情報

Jean-Paul Benzécri et 46 collaborateurs
(1976年刊行, Dunod, Paris, VIII+631 pp., ISBN:2040033165 [hbk] → 目次

ベンゼクリの主著であるこの『データ解析』は,1973年に初版が出版され,1976年に増補改訂第2版が出た.全2巻構成で,第1巻は本書『分類学(La Taxinomie)』,続く第2巻は『対応分析( L'Analyse des Correspondances)』である.合計はすれば1,300ページもの厚さがある.“ベンゼクリ” という名前はもちろん昔から知ってはいた.しかし,林知己夫の〈数量化理論〉と過度に関連づけて先入観をもっていたせいか,てっきり「コレスポンデンス分析」の本だとばかり思い込んでいた.しかし,それは第2巻についてであって,先行する第1巻は理論分類学の著作であることを確認した.

第1巻の冒頭にはリンネの似顔絵が掲げられ,最初に生物分類学の歴史が概観され,その後はいかにもフランス的な「数理分類学」の理論体系がもっともベーシックな順序理論の公理から構築される.「なんて “ブルバキ的” な」という印象は当然で,ベンゼクリは “ブルバキ” の構成員の一人だった.現物を手にして初めて知ったのだが,この本の著者は Jean-Paul Benzécri の単著ではなく,全46名もの collaborateurs が書いたことになっている.もちろんベンゼクリは “ニコラ・ブルバキ” とはちがって実在しているが,何となく秘密結社的な結界を感じる.

ベンゼクリの『データ解析』はいわゆる “神棚本” であって,遠くに見上げて拝むことはあっても,実際に手にとって読まれることがないタイプの本だ.これだけ有名なのに日本の大学や公的機関にはほとんど所蔵されていないから,めくったことのない人がほとんどだろう.方々で繰り返し参照される “神棚本” は,たとえ自分で手に取らなくても,「何となく読んだ気になってしまう」錯覚を引き起こす.とくにベンゼクリの本みたいに現物にアクセスしにくい場合はよけいにそのリスクが高くなる.自分の専門分野の “神棚本” は心して手元に置くように気をつけたい.

実物を手にとってすぐに連想したのは,翌年に出版されたジョン・W・テューキーのオレンジ本:John W. Tukey『Exploratory Data Analysis』(1977年刊行,Addison-Wesley[Addison-Wesley Series in Behavioral Science: Quantitative Methods], Reading, xvi+688 pp., ISBN:0201076160 [hbk])だ.分厚く重くそして孤高という3点でみごとに似通っている.

フランスの「自動分類(classification automatique)」の研究者たちが,英語圏の数量分類学派の「クラスター分析」にとどまらない,より基礎数学を目指したのは Benzécri 経由で “ブルバキ” につながっていたからであることを感じた.