スティーヴン・ジェイ・グールド[渡辺政隆訳]
(2021年11月20日刊行,工作舎,東京, 808 + 1,120 pp., 本体価格9,000円 [I]/11,000円 [II],ISBN:978-4-87502-534-4 [I] | ISBN:978-4-87502-535-1 [II] → 目次 [I] |目次 [II] /版元ページ [I]|版元ページ [II])
この『進化理論の構造』の原書が出版された2002年であれば,グールドが書き留めた現代進化生物学の “戦記物語” の記述をリアルに実感できる読者層は少なくなかっただろう.しかし,20年後のいまこの訳本を手にする読者にとっては大昔の “源平盛衰記” となってしまうかもしれない.これは本の側(著者の側)の問題ではなく,読み手の側の事情による.たとえば,主著『適応と自然選択:近代進化論批評』の訳本が工作舎から出たジョージ・C・ウィリアムズについて,グールドは第8章の200ページを費やして批判している(→ 読書ツイート).しかし,この章の内容はウィリアムズの思想の “時代的変節” を知っていないと理解できないだろう.スピルバーグ監督の映画〈ウエストサイドストーリー〉が視聴者を選ぶのと同じ意味あいで,グールドの『進化理論の構造』は日本の読者を選んでいるとワタクシは考えている.
ウィリアムズの別の本:George C. Williams『Natural Selection: Domains, Levels and Challenges』(1992年刊行, Oxfoed University Press[Oxford Series in Ecology and Evolution: 4], New York, x+208 pp., ISBN:0-19-506933-1 [pbk]) で展開されているように,彼は「クレード選択」というメカニズムを念頭に置いている.ただし,ウィリアムズは分類学的な「種問題」の “地雷原” は注意深く避け,gene—genotype—clade という階層を考えている.一方,D. S. Wilson と Elliott Sober の想定する複数レベル淘汰(たとえば:E. Sober and D. S. Wilson『Unto Others : The Evolution and Psychology of Unselfish Behavior』1998年刊行,Harvard University Press, Cambridge, xii+394 pp., ISBN:0-674-93046-0 [hbk] → 書評)はもっと一般化されている.
—— 書き手は読み手を選んでいる