ジェームズ・フランクリン[南條郁子訳]
(2018年5月15日刊行,みすず書房,東京, viii+609+88 pp., 本体価格6,300円, ISBN:9784622086871 → 目次|版元ページ)
最後の「エピローグ 非定量的蓋然性のサバイバル」では,パスカル以降の “数学化” の傾向 —— 「数学的方法によってしだいに植民地化されてきた物語」(p. 572) —— を免れた “非数学的” な蓋然性の残響 —— 「多くの非定量的な蓋然性がしぶとく生き残っているようす」(p. 572) —— に耳を澄ませる.ポール・ロワイヤルやラプラスの論理学あるいは法学や道徳神学のその後の顛末にフランクリンは注意を向ける.そして,現在の科学哲学にも時としてみられる懐疑論(社会構築主義)に対抗するには,証拠に基づく非演繹的推論の史的基盤を再認識することだとしめくくられる.
続く「2015年版への後記」と銘打たれたポストスクリプトでは,非定量的な蓋然性(確率)をベイズ統計学の観点から捉える立場が述べられている.著者は「論理的蓋然性主義」を「客観的ベイズ主義」とみなしているようだ(p. 591).証拠と仮説に関する論理的確率を指しているものと思われる.
本書はハッキングの『確率の出現』ではあまり触れられていなかった,パスカル以前の確率(蓋然性)概念がたどってきた長い歴史をぎゅっと詰め込んだ大著である.本文も膨大だが,巻末の原註はさらに膨大な文字数がみっしり押し込まれている.通読するだけでも時間がかかる本だがその見返りはとても豊かである.巻末に付けられた折り込み図版の「関連年表/人物–テーマ相関表」は,紀元前23世紀から始まりパスカルが登場する17世紀までの分野別の歴史がひとまとめに鳥瞰でき,蓋然性の歴史の広さと深さが実感できる格好のチャートだ.