『日本の漢字』

笹原宏之

(2006年1月20日刊行,岩波書店岩波新書(新赤版)991], ISBN:4004309913

漢字の系統発生とその進化過程を論じた格好の入門書.とくに,“俗字”という variation の発生過程と,それがどのような selection を受けて,後世に存続するか(あるいは絶滅するか)を具体的な事例を豊富に挙げつつ論じているところに注目したい.漢字進化に関する population thinking を著者が徹底しているのは興味深い.個人的には「微小地名」に関する著者自身の体験談がとてもおもしろかった.



漢字の使用頻度にともなって画数を減少させる方向への淘汰圧があることや,漢字の省略に伴って生じる homoplasy(「衝突」)が生じるなど現象は,生物の系統発生にも通じるものがあるように感じる.漢字の変遷という素材を通じて,文化進化あるいは文化系統という大きなテーマに通じる論議に展開できると思った.



それにしても,この新書は組版がさぞたいへんな作業だったろうと推測する.辞書にない漢字がばんばん出てくるから.その辺を堪能するという愉しみ方もある.



[付記]著者のあとがきによると,近刊として,『日本人が創った漢字:国字の世界』(講談社)と『国字の位相と展開』(三省堂)が出版予定とのこと.期待しましょう.

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