『昭和を騒がせた漢字たち:当用漢字の事件簿』

円満字二郎

(2007年10月1日刊行, 吉川弘文館[歴史文化ライブラリー241], ISBN:9784642056410



前著:円満字二郎人名用漢字の戦後史』(2005年7月20日刊行,岩波書店岩波新書・新赤版957],ISBN:4004309573版元ページ書評・目次)以来,この著者には注目していた.前著で提示された,漢字のもつ“かけがえのなさ(=「唯一無二性」)”という著者の主張を足場にして,近代日本のいたるところで見られた大小さまざまな「漢字事件」を掘り起こしているのがこの新刊である.

当用漢字制定にともなう漢字使用をめぐる軋轢,そして旧字体から新字体への移り変わりがもたらした悲喜劇,そして何よりも水俣裁判での〈怨〉という字に象徴される漢字の「唯一無二性」と人々のこだわりが説得的に語られる.異体字に対する態度の硬化が最近の日本における漢字文化で目立ってきた点だと著者は指摘する.漢字に関心のある人にはきっとおもしろい読み物だろう.

—— 内容とはまったく関係ないが,本書の組版だと活字が低密度すぎて,サイズは大きいが文字数は新書を下まわっているかもしれない.とすると,この定価はちょっと高いかな.